【冬晴れ】
~辛いのは自分じゃない~
「恐らくこの子は
もうあなたの声が聞こえないでしょう。
突発性難聴です。
本当にいいのですか?補聴器ならありますよ?」
「いえ、もう家にお金なんて無いんです。
診療してもらうのもやっと。
そんな余裕ありません。」
「そうですか…」
いきなり手を引かれた。
あ、もう帰るんだ。
私はいつも通り家に帰る。
そしたら勉強をして、寝て。
母の料理が出来たというLINEをひたすら待つ
いつも食事を作ってくれてありがとう…
こんな私のために…感謝してもしきれない…
耳が聞こえなくなって自分も辛かったけど
きっと辛いのは私じゃなくてお母さんだ
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なんでこんな子の世話をしなければ行けないの…
不憫で仕方ない…
疲れて家に帰ると
耳が聞こえない娘がいる。
娘なんだから世話するのは当たり前だとわかってる…
夫が不倫して離婚して…辛くて…
ひとりで家を支えるために働いて…
でもいつも娘が寄り添ってくれたから
ここまで来れたのに…
そんな娘からも見捨てられたかのように
私の声が聞こえなくなる…
全てなくなって行く…
幸せだった時間が消えていく……
幸せだと思っていたのに……
毎日毎日耳の聞こえない娘に対して愚痴を言う
こんな事しても意味ないのに
聞こえないからいいわよね…
もううんざりなのよ…
こんなもの…捨ててやる
こんなもの…要らない
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耳が聞こえなくても
幸せだと思っていたある日…
「お母さん…?」
どうしてこんなに部屋がちらかってるの…?
なんでそんな怒った顔をしてるの…?
何か私に喋っているけど私は聞こえない…
けど、機嫌が悪いのは分かる…
あぁ…私が耳が聞こえないからなんだ。
きっと私の愚痴とかストレス解消のために言ってるんだよね…
私は聞こえないから…
暖かい母の声も…
自分の声さえも…
辛いのは自分じゃない
お母さんなんだ
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ごめんなさい
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雪が止んで外が晴れる
少しずつ雪は溶けてゆき
最後には消えた
お母さんとの色々も
まるで真っ白な雪が溶けるように
綺麗に消えていた
1/5/2025, 2:05:44 PM