Eclipse

Open App

【冬晴れ】
~辛いのは自分じゃない~

「恐らくこの子は
もうあなたの声が聞こえないでしょう。
突発性難聴です。
本当にいいのですか?補聴器ならありますよ?」

「いえ、もう家にお金なんて無いんです。
診療してもらうのもやっと。
そんな余裕ありません。」

「そうですか…」

いきなり手を引かれた。
あ、もう帰るんだ。

私はいつも通り家に帰る。
そしたら勉強をして、寝て。
母の料理が出来たというLINEをひたすら待つ
いつも食事を作ってくれてありがとう…
こんな私のために…感謝してもしきれない…
耳が聞こえなくなって自分も辛かったけど
きっと辛いのは私じゃなくてお母さんだ

------------------------------------------------------

なんでこんな子の世話をしなければ行けないの…
不憫で仕方ない…
疲れて家に帰ると
耳が聞こえない娘がいる。
娘なんだから世話するのは当たり前だとわかってる…

夫が不倫して離婚して…辛くて…
ひとりで家を支えるために働いて…
でもいつも娘が寄り添ってくれたから
ここまで来れたのに…

そんな娘からも見捨てられたかのように
私の声が聞こえなくなる…

全てなくなって行く…
幸せだった時間が消えていく……

幸せだと思っていたのに……

毎日毎日耳の聞こえない娘に対して愚痴を言う
こんな事しても意味ないのに
聞こえないからいいわよね…
もううんざりなのよ…

こんなもの…捨ててやる
こんなもの…要らない
------------------------------------------------------
耳が聞こえなくても
幸せだと思っていたある日…

「お母さん…?」

どうしてこんなに部屋がちらかってるの…?
なんでそんな怒った顔をしてるの…?

何か私に喋っているけど私は聞こえない…
けど、機嫌が悪いのは分かる…

あぁ…私が耳が聞こえないからなんだ。
きっと私の愚痴とかストレス解消のために言ってるんだよね…

私は聞こえないから…
暖かい母の声も…
自分の声さえも…

辛いのは自分じゃない
お母さんなんだ

------------------------------------------------------

ごめんなさい

------------------------------------------------------

雪が止んで外が晴れる

少しずつ雪は溶けてゆき
最後には消えた

お母さんとの色々も
まるで真っ白な雪が溶けるように
綺麗に消えていた

1/5/2025, 2:05:44 PM