さくらもち

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今日は中学の卒業式だ。

「よう、雅人。また遊ぼうな」
「おう。そっちも高校頑張ってな」

幼馴染の泰介とも、これでしばらくお別れだ。
父さん…浩人も通っていた中学校。僕は父さん似で、当時の先生にたまに間違えられる。
桜海中学校は古びた校舎で、あまり魅力がないが、それでも別れるのは寂しいものだ。

「みんな…。また会おう!」

担任の浅井先生が一人ずつハグしている。
浅井先生は体育会系の熱血教師で少しウザかったこともあるが、担任との別れもかなり堪える。
…待てよ。このままだと浅井先生にハグされるのか。
浅井先生も悪気はないのだが、力んでしまうことが多々ある。
4月下旬の1時間目で

「『友』と言う漢字は、二人が支え合う字なんだ!」

とチョークで大きく黒板に描き、チョークが割れた。
他にも、女子がキャラもののペンを持って来たとき、怒りながらそのペンを折った。
僕は小柄だから、浅井先生にハグされたら危ない。
僕はさっさと逃げることにした。

校舎裏のベンチでお茶を含む。
空を見上げながら物思いに耽っていると

「すみません」

と声が聞こえた。
知らない女子だった。長い前髪のショートカットの小柄の子だ。

「なんですか?」

迷ったのだろうか。いや、3年の名札をつけているからありえない。

「第二ボタンを、ください…」

第二ボタン。つまり、僕のことが好きなのだろうか。

「は、はい…」

第二ボタンを取り、渡す。

「ありがとう…」

風で彼女の長い前髪の下の瞳が見えた。茶色の瞳だ。

「浩人」

そういうと、彼女は消えていった。

そういえば、父が話していたことがある。
中学生の頃、両思いの女子がいたと。
しかし、玉突き事故の巻き添えで死んでしまった。

「もちろん、母さんが好きだ。だけど、彼女とまた話したいなぁ」

と父はたまに言っていた。

校舎裏にはシダレヤナギや桜が咲いている。
シダレヤナギには幽霊が現れるとかなんとか。

「なるほど…」

桜がひとひら、舞い落ちた。




(季節外れですみません…)

4/14/2025, 9:58:24 AM