NoName

Open App

「好きな色」

第一志望の大学に受かって東京に行くことが決まった。うれしいが、複雑な気分だ。いつも図書室で勉強しているとき近くにいる一つ下の後輩が気になっていた。急に雨が降ってきた時、傘に入れてくれて、それがきっかけで付き合うようになった。

図書室で勉強して一緒に帰るだけ。合格するまではそう決めていた。けどもう我慢はしない。今日は初めてのデートだ。映画を観に行く約束をした。

シネコンが入っているショッピングモールで待ち合わせだ。少し早めに着いたのでブラブラと歩いていると、パステルオレンジの花模様の傘が目に入った。ブルーとピンク、イエローもある。東京に行く前に何かプレゼントをしたかった。傘なら二人にちょうどいい。よし、今日は好きな色を聞き出すぞ。

同じ本を読んでいたことから恋が始まる映画だった。最後は別れてしまったけど、俺たちは別れるもんかと、固く決心した。遠距離が何だ。

フードコートでお茶をした。二人で映画のことを話していると急に寂しくなった。やっとこんなふうに話せるようになったのに。それは彼女も同じなのだろう。うつむいてしまった。

それから二人で海まで歩いた。風が冷たい。映画館では迷ったけど、結局手をつなげなかった。今なら寒いのを言い訳にしてつなげる。そっと手を取った。冷たい。一瞬だけ恥ずかしそうにためらって握り返してくれた。その手をコートのポケットに入れた。

「あったかい」
由貴がポケットの中の手に力を込めた。
「私も東京の大学に行く」
思わず立ち止まって由貴の顔を見つめる。目が合った。決意に満ちた表情は凛々しくきれいだ。反対の手で頬に手を当て唇を重ねた。
「待ってる」

それから無言で身を寄せ合い沈んで行く太陽を見ていた。
「この色、好き。夕日に染まったオレンジ色の空」

6/21/2024, 12:16:31 PM