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お題:手ぶくろ

 昔母にもの凄く怒られたことがあった。
「ただ手袋が欲しかっただけなの」と言い訳をした。

 あれは深々と雪が降る季節だった。
生物すべての命が止まったような気がした。
ワコは冬が嫌いだった。命を全部とってしまう冬が嫌いだった。
 ワコは、ある日、母と商店街で買い物をして帰る途中に目に入った手袋が欲しくなった。
赤い毛糸のモコモコの手袋が何故かワコの心を掴んだ。
「おっかぁワコこの手袋ほしい!」ワコは、母に言った。
「ワコにはこの手袋は大きすぎるからダメよ」と母はワコにピシャリ言うと家に連れ帰られた。

 家に帰ってもワコは手袋のことを忘れら無かった。
母も父も寝静まり家の中はシーンと静まり返っている。
両親が寝ているのを確認すると、ワコは母が台所に溜め込んでいる棚へ行く。

 そしてビニール袋を数枚取り出すとハサミでチョキチョキと切り始めた。
 最初は簡単に行くと思い切っていった、しかし上手く切れない。
周りにはビニール袋の残骸が増えていく。
チョキチョキ切り始めてどれくらいの時が経ったのか、ワコは次第に眠くなり始めてきた。
やっと納得できる形にしたワコは切ったビニール袋の残骸をゴミ箱に放り込んで布団に駆け戻った。
小さいビニール袋の残骸があった気がしたけど見なかったことして布団に戻った。
 布団の中で自分が作った手袋を見た。
お世辞にも手袋とは呼べるようなものではなかった。
ビニール袋にただ穴が空いただけの手ぶくろだ。
それでもワコは何だが達成感で眠った。

 そして、翌朝台所の散らかった惨状を知った母から、ワコはゲンコツを貰った。
 改めて手ぶくろを見るとあの赤い手袋には程遠いものだった。
「やっぱりあの手袋がいいなぁ」
ワコは呟きながら作った、寒さも凌げない穴の空いた袋を捨てるのだった。

12/27/2023, 11:41:44 AM