私は宇田川美奈、都内の大手メーカー勤務の24歳
私には一卵性の双子の姉麗奈がいる
一卵性の双子はよく「合わせ鏡」のようだと言われるけれど、私達の場合も全くその通り
顔が見分けがつかない程そっくりなのはもちろんだけれど、思考や行動も申し合わせたようにピッタリとシンクロする
幼い頃は父親でさえ見分けがつかないこともあったらしいし、中学の時には入れ替わって授業を受けたこともあった
クラスの仲の良い子は気が付いてクスクス笑っていたけれど、声も殆ど同じだったからそれぞれの担任の先生は全く気が付かなかった
スリル満点の愉快な思い出だ
双子全般が同じかどうかは知らないけれど、時には気持ちが悪いほど私達は本当にシンクロする
呼び止められて振り返る時も、同じタイミングで同じ様な仕草
危ない時や咄嗟の行動も全く同じ
「鏡に映ってるみたい!」
と友達は良く大笑いした
別の部屋で同じ質問に答えても同じ答えになるし、
「麗奈はきっとこう答えるから逆にしよう!」
と答えを出すと、麗奈も同じ事を考えて、結局同じ答えになってしまうのだ
高校の時に麗奈が部活中に怪我をしたことがあった
私は別の場所で別の事をしていたのだけれど、突然左の足首がひどく痛んだ
実はその時麗奈は左の足首を捻挫したのだ
でも、そういう事はむしろ常で、そういうものだと思って生きてきていた
ところがお互い大人になるにつれ、鏡のようにシンクロし合う存在であることをお互いに疎ましく感じるようになった
それは私達が大学3年の時のことだ
二人ほぼ同時に好きな人が出来た
そして、ほぼ同じ時期にお付き合いをはじめた
そんなに分身のような仲でも、仲だからこそなのか好きなタイプについて話をしたことは無かったが、何となく想像はついた
きっと好きなタイプも似ているのだろう…と
ある日ダブルデートをすることになり、お互いの彼が登場すると、何と相手も双子同士だったのだ
そのことを麗奈は面白がったが、私は嫌だった
理由は分からないがすごく嫌だった
そこまではっきりと意見が分かれたことはその時が初めてだった
それ以降、私が麗奈を避けるようになり、私は自宅を出た
そして、麗奈とシンクロさせる心に蓋をした
それから数年が過ぎ、昨年麗奈は結婚した
相手は双子ではなかった
そしてまったく私のタイプでも無かった
あの時何故あれほどまでに麗奈を疎ましく思ってしまったのかは今でも分からない
でも、どれだけ疎ましく思おうとどれだけ離れていようと、所詮私達は合わせ鑑
結局は無意識にシンクロしてしまうのだ
でも、麗奈は家庭人になり、私は仕事人としてキャリアを積もうとしている
お互い別々の道を歩き始めている
二人を映し出す鏡の向きも、映し出す景色も少しずつ変化しているのかも知れない
「鏡も多様性の時代なのかもね…」
とちょっと可笑しくなった
『鏡』
8/19/2024, 5:14:59 AM