スマホも電子辞書もない昔は、海外旅行って今より本当に大変なイベントだったんだよ。出国するまでも、向こうで楽しく過ごすのも、無事に帰って来るのも。
旅行仲間に限界外国語の達人っていう先輩がいたんだけどさ。“限界”って何かというと。
「こんにちは、ありがとう、ごめんね」
現地語でこの3ワードさえ言えれば、出会った人達と大抵のコミュニケーションは何とかなるってわけ。
で、旅行滞在中は更に追加で2ワード。
「これはいくら?」
「トイレはどこ?」
先輩はこの5つだけなら21か国語で話せるって笑って自慢してた。そのうちの3つは広東語と上海語と普通話だったよ。先輩は料理が好きだったから、現地であちこち食べ歩くのを趣味にしてたんだ。
でさ、こないだ久々にその先輩から連絡きて一緒にご飯食べたんだ。最近どこに行ったか聞いたら真顔で一言「地底都市」って。
正気か?って一瞬怯んだんだけど、スマホの写真見せてもらったら、疑いきれなくなっちゃった。先輩いわく、
「太陽光がないから朝晩の概念がなくて『おはよう』『こんばんは』に対応する単語もない。全部『こんにちは』で良かった。あと、貨幣制度も無いっぽくて『これいくら?』は教われなかった」だってさ。
行こうと思える好奇心と、スマホの十分なバッテリー、あとは身体に合った胃腸薬。今はこの3つがあれば、何も話せなくったって世界中どこでも行けるって笑ってた。
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「ありがとう、ごめんね」
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所感:
お題に合わせて変更しましたが、本来の限界外国語は「ありがとう、これいくら、トイレどこ」の3つです。あとは身振り手振りと変顔でなんとかなります。
12/9/2022, 9:15:00 AM