つぶて

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いいかい? この子は決して誰にも見せてはいけない。これはボクとの約束だからね。

日を追うごとに、記憶に残る声が大きくなる。
なのに僕は今日もこの子を連れてきてしまった。
鞄の中からひょっこりと顔を出す妖獣。黒い角に黒い毛並み。つぶらな瞳に毒を持つ鋭い牙。この世には存在しないはずの怪物。僕が育て上げると決めた子だ。
頭を撫でていると足音がして、慌てて鞄の中に押し込む。

「お前、こんなとこで何やってんだよ」
「一人で飯食ってんの?」
「うわ、さみし〜」

ゲラゲラと耳障りな笑い声がする。込み上げる悔しさに我を忘れそうになって、急いでその場を離れた。

校舎裏、鞄の中を覗く。僕が膝に顔を埋めていると、その子が小さく鳴く。最近は妙に勘が良くなってきて、僕の感情まで汲み取ってくれる。体も成長してきて、大きくなった羽で空を飛ぶ練習をしている。いつかは僕を乗せて大空を翔んでくれるそうだ。だからいいんだ。僕は寂しくなんてない。

でも、一度でいいからあいつらに見せてやりたいな。
どんな顔をするだろう。きっと、僕のすごさに恐れ慄くに違いない。あいつらの自尊心をビリビリに引き裂いてやれたら、どれだけ愉快だろうか。

こめかみが脈打っている。警鐘が鳴っている。
わかってる。僕とこの子が今のままであるためには、
誰にも言ってはいけない。言ってはいけないんだ。


6/5/2023, 1:37:41 PM