生粋

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【部屋の片隅で】


1枚の小さな写真が揺れる

もう少し若い頃の俺だ

今より少し痩せている


家族好きの長女が

中学校の修学旅行の準備をしていた

やはり楽しみなようだが

家族と離れる事が少し寂しそうだった

加齢臭の染み付いた俺の枕を

持ってく?

とボケたつもりだったが

本気で悩み出したのを覚えてる


必要な物を買い足しながら準備をしていると

長女が新しいデジカメを買って欲しいと言い出した

まぁ確かに

子供達の成長を撮り続けた

我が家のデジカメは買い替え時でもあった


出発の日

大きな荷物と

新しいデジカメを携えた長女を

学校に送って行きながら

昨夜作ったお守りを渡した

本当に困った時に開けなさい


マンガなんかで見た事あるシーンだ

きっと小遣いが無くなった頃に開けるだろうと

その時は軽い気持ちで・・・


その夜

長女から泣きながら連絡があった

どうやら

買ったばかりのデジカメを

友達が誤って踏んでしまったらしい


わがまま言って買って貰ったデジカメが

活躍する間もなく寿命を終えた事実に

長女は底知れぬショックを受けたらしく

担任の先生に

持ってきたお小遣いで修理するから

電気屋さんに連れてってくれと号泣しながら言ったらしい

とにかく今日は

営業時間も過ぎてるから

と先生に嗜められ

ようやく部屋に戻ったとの事だった


部屋に戻った長女は

思い出してしまったらしい

今朝渡された

まさかホントのピンチに開けられるとは思ってなかった

お守りの存在


友人達の助けか

電話で伝えた思いが伝わったのか

翌朝には気を取り直した長女は

修学旅行をしっかり楽しみ

無事に帰って来た


学校に迎えに行くと

到着したバスから降りてくる生徒達が

やたらと俺に挨拶をしてくれる

あ!〇〇のお父さん!こんにちは!

中にはほぼ初めましての子も居た

何故か急に認知されていた


帰ってきた長女に話を聞くと

あの夜

一人部屋に戻った長女は

泣きながら荷物の中からお守りを取り出したらしい

幾重にも包まれ

その1枚1枚に

今なのか?

本当に今なのか?

などと書かれたお守りを迷う事なく開いた

出て来たのは

軽く微笑み

親指を立て

ポーズを決め

ど~んマイ!

と書かれた俺の写真


そこに心配して部屋にやって来た

長女の友人ユウナ

お守りセットを見たユウナは

お前のと~ちゃんオモロ!と

泣くほど笑い

そしてお守りは

同級生達の中で一周回って戻ってきたそうだ


あぁ

それで皆・・・


そ~ゆ~事は先に言ってくれよ!

そうと知ってたら

車の中で待ってたよ!

あぁ恥ずかしい

すっごい大人ぶって挨拶返しちゃったよ


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか

部屋の片隅に飾られた

小さな写真は

ど~んマイ!



こちらに向かって微笑んでいるのだ

12/7/2024, 2:56:37 PM