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知らない方が生きやすいってことも、あると思う。

「多分、愛着障害だったんだよね」

数年ぶりにあった姉に言われた、その四文字は、私から言葉を奪うには簡単なことだった。

「こんなことお母さんにも友達にも言えないからさ」

そう言って笑う姉に、愛着障害があったなんて到底思えず、今までも思ったことはなかった。
家族からのネグレクトや虐待はなかったし、私たちは、一般家庭と同じように育てられた子どもだった。

「そうだったんだ」
「まあ、今はそんなことないけどさ」

そう言って笑う姉は、お腹に優しく手を当てて幸せそうに微笑む。机の上にある携帯には、姉と旦那さんの笑顔がうつっている。

今考えると、姉と私では性格も考え方も違っていた。
姉は優しくされると嬉しくなり、のめり込む依存体質であったが、私は優しくされると怖くなり、1歩引いてしまう非依存体質であった。
つまり、姉が愛着障害ということに対して、なるほど、と納得してしまった。

「気づかなかった」
「そうだよね」

それだけ言うと姉は席を立ちトイレに向かっていった。
1人残された私は、ふと携帯に手を伸ばす。
姉はきっと、人と強く繋がろうとする、脱抑制型愛着障害というやつなのだろう。
そして、それはきっと、新しい家族によって緩和されているのだろうと思うと、少し羨ましい。
スっと指を動かす。
きっと、私達の親は愛着形成が下手だった。
画面に移る文字を見て、夢を見ているようにふわっとした感覚に陥る。




反応性愛着障害
" 親密な関係に不安を感じ、人との関わりを避ける"




喉がぎゅうっと狭くなる音がした。


《夢じゃない》

8/8/2025, 2:44:44 PM