知らない方が生きやすいってことも、あると思う。
「多分、愛着障害だったんだよね」
数年ぶりにあった姉に聞かされたそれは、私から言葉を奪うには簡単だった。
「こんなことお母さんにも友達にも言えないからさ」
そう言って笑う姉に、愛着障害があったなんて到底思えなかったし、今までもそう感じたことはなかった。
両親からネグレクトや虐待をされたことはなかったし、私たちは、一般家庭と同じように育てられた。
「そうだったんだ」
「まあ、今はそんなことないけどさ」
そう言って笑う姉は、お腹に優しく手を当てて幸せそうに微笑む。
机の上にある姉の携帯には、数ヵ月後のカウントダウンが表示されていた。
「あともう少しだもんね」
「うん」
そんな姉の幸せそうな笑顔とは異なり、私はふと考え込んでしまう。
姉と私は性格も考え方も異なる。
姉は優しくされると嬉しくなり、のめり込む依存体質であるが、私は、優しくされると怖くなり、1歩引いてしまう非依存体質であった。
依存体質な姉が愛着障害だったことは、今思えば、なぜ気づくことができなかったのか不思議なくらいだった。
「あ、トイレ空いた〜」
それだけ言い姉は飲みかけのオレンジジュースを置いて、席を立った。
1人残された私は、ふと自分の携帯に手を伸ばす。
愛着障害には種類があって、姉はきっと、人と強く繋がろうとする、脱抑制型愛着障害というやつなのだろう。
そして、それはきっと、新しい家族によって緩和されたことは容易に検討がつき、少しだけ、羨ましかった。
スっと指を動かし、次々と画面に映る文字を見た。
喉がぎゅうっと狭くなる音がして、私は画面を伏せた。
反応性愛着障害
" 親密な関係に不安を感じ、人との関わりを避ける"
きっと、私達の親は愛着形成が下手だった。
《夢じゃない》
8/8/2025, 2:44:44 PM