ナナシナムメイ

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〈お題:赤い糸〉
当時、紡がれた言の葉に私は運命を感じていた。
「ありがとう」
遠い空の向こう側からカーテンを薙いで、微かに残光が差し込む先には一通の手紙があった。

赤黒い封筒に包まれたその手紙の中には、私への想いが綴られている。
私はその手紙に込められた想いと引き換えに未来を得て余生を過ごしたのである。

「ありがとう…」
もう充分です。私はその手紙に恩人を重ねては心の中で詫びている。感謝の念は日を追うごとに、死への恐怖を掻き立てるからである。

難病だった私をこの歳まで掬ってくれた。
もう、手紙を手に取る事すら叶わない。
「…ごめんなさい」
アナタの元へ向かうには遅すぎたから。
きっと、私を私と判らないでしょうから。
運命の赤い糸で私を留めたアナタには、もう。
「こわいよ…」

6/30/2024, 4:59:08 PM