めしごん

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それでいい



「リース飾り出来たぞ!」
「こっちにあと4つちょうだい」

小さな金色のベルともみの木の栞、それを針金入りの紐で括って、古い黒電話の受話器部分にキラキラしたリボンで結びつける。リボンの色は赤。

「世界中の子供からの願い事を聞く電話だ、慎重にな」

そうは言われたものの飾りを括らなければならない台数が多過ぎて、まるで戦場だった。
前準備してなさすぎ!隣の相方は鼻歌で「戦場のメリークリスマス」を歌っていた。あれ、案外余裕じゃない?

「終わったー!」
「やったー!おつかれ〜!」

重ねて括ったリボンが、彼女の振り上げた腕の勢いに負けて裾がなびく。
余った針金入りの紐と栞を片付けながら、うきうきと、

「あと開通はしなくて平気?終わった?帰っていい?」

終わらない作業の途中、括ってもらった髪がさらさらと肩を滑る。
纏めると目付き悪いのバレるからあんまヤなんだよね、と僅かに唇を尖らせる彼女に、髪を梳るリーダーは、ここにはそんなことでお前に文句言うやつなんていないぞ、と笑いながらヘアセットしていた。話聞けって思った。けど、纏め終わった髪を鏡に映して彼女が嬉しそうにしていたからそれが正解なんだろう。
すげー悔しいけど、もさっとした髪をすっきり上げた彼女は確かに可愛かった。

「開通は俺らでやる。これで作業は終わりだ、お疲れさん!」
「うひょー!終わりだーメリークリスマスー!」

まだ早いんだが。
クリスマス一か月前、そろそろ世界中の子供達の願い事が届く頃なのにまだ全然準備出来てないとコールセンター担当に泣きつかれてバイトに来たが、なかなか過酷な三日間だった。
やっぱり季節行事担当はブラックだな…納期短過ぎる。

「じゃー帰ろ!」
「ねぇ帰り一緒にどっか行こう、」
「え、」
「えーだってせっかく髪可愛くしてもらったし」
「……おう!」

リーダー、グッジョブ。感謝を込めてコールセンター担当リーダーを見ると、無表情のドヤ顔で力強く親指を立てながら頷きを返された。
……やっぱりこのバイトやって良かった!



(季節業者の俺と彼女、とバイトリーダー)


※先日見た夢の話

4/4/2024, 11:47:25 PM