【世界線管理局 収蔵品
『透明缶』 シリーズ①
透明な羽根を授けるジュース 初期ロット】
見た目としてはごく普通の缶入り飲料。
いわゆる「透明缶」シリーズのうちのひとつ。
透明な飲料水でも、クリア素材の缶でもない。
滅亡した某世界が、まさしく滅亡する理由となった間接的な理由であり、兵器転用可能な日用品。
摂取すると、10〜30分の間、缶に記載された能力をひとつ、自身に付与する。
なお「透明缶」の名前の由来にもなった「透明な羽根を授けるジュース」の初期ロットは
透明も透明、まったく見えない透明な羽根が臀部付近に生成されたというクレームが複数寄せられ
発売数時間で回収となった。
<<発売数時間で回収となった>>
――――――
「ここ」ではないどこか別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこでは世界と世界を繋ぐ航路を敷設したり、
航路の保守点検や管理整備をしたり、
滅亡した世界との航路を封鎖して、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムを回収したり。
世界と世界に関する様々な仕事をしておりました。
滅亡世界からこぼれ落ちるアイテムは意外と多く存在しておって、専用部署もそこそこ広大。
収蔵部収蔵課が、主に頑張っています。
その日も収蔵部の管理局員・ドワーフホトのもとに、飲料タイプの収蔵品が届きました。
で、ただのジュースと思ったらしい法務部のハムスター(事実)な執行課局員・カナリアが、
ハムスターの固い歯でプルタブを開けて
ペロペロジュースを舐めまして
すると、なんと、
ハムスター局員・カナリアのおしりに
透明な羽根が、実装されてしまったのです。
ハムスターなのに名前がカナリアって、まぎらわしいですね。 まぁ気にしてはいけません。
「『おおむね10分で効果は切れます』だってぇ」
ぱたぱた、ぷかぷか。
まるで一時期流行した、つままれキーホルダーのような体勢で、とっとこカナリアが浮いています。
どうやら自分の意思ではなく、勝手に飛んで——いや、飛ばされて、おるようです。
「10分経てば、戻れるよ〜」
良かったねカナリアくーん。
ジュースの缶に書かれている説明文を翻訳グラスで黙読して、ドワーフホトが言いました。
「あのね、カワイイから、ちょっと撮るぅ」
「撮る前に助けてよ、僕やだよこんな格好」
「ぇえ〜?いーじゃん、かわいいよ〜」
「カワイイかわいくないじゃないよ!助けてよッ」
じたじた、ばたばた。
透明な羽根の自動飛翔に、抵抗したいのでしょう。
とっとこカナリア、がんばって手足を動かします。
だけど作用も反作用も、反動も反発も上手に利用できないらしく、
ただただ、カナリアの動いた結果として、
ゆっくり、ゆっくり、ハムスターが空中で、回転台に乗せられたように回っておるだけ。
要するに、なかなかシュールなのでした。
「コンちゃん、きっと、こーいうの好きだろなぁ」
「コンちゃん?例の稲荷神社の子狐?」
「お裾分けしてくるぅ」
「待って!お裾分けの前に助けてッ!」
うぬぐぐぐ!!動けない!自由に飛べない!
ジタジタばたばた、とっとこカナリアは大慌て。
透明な羽根を動かして、同僚・ドワーフホトを追いかけようとしますが、上手くいきません。
「くっそぉぉ!なんだよこの収蔵品!!」
結局5分暴れて、5分で疲れて抵抗をやめまして、
結果、10分後に透明な羽根が消えて、机にぽとん。落っこちましたとさ。 おしまい。
11/9/2025, 5:40:05 AM