薄墨

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ぽっかり、青空が見えている。
清潔なだけの公共会議室。
真四角の青空が、僕を見下ろしている。

デスクの上に、人数分置かれた書類。
上席に合わせて引きずってきた、キャスター付きのホワイトボード。
スライドを映し出す、ピンと張られた、暗幕を彷彿とさせる、スクリーンと、それに添えつけられた、ノートパソコン。

ひとつひとつ、確認する。
手の中に握り込んだポインターのスイッチを、ぎゅっと押しながら、これらのモノに向かって、俺は呟く。
「たのむぞ…!」

無事に、一点の赤い光を照射したポインターの先を確認し、僕はジャケットのポケットに、ポインターを滑り込ませる。

そして、今回の会議の主役__カバーの暖色は日焼けし、読み古されている__“問題”図書を手に取る。

誹謗中傷、ハラスメントなどが問題視されている現状、世の中には積極的に使われない、所謂“自主規制語”が増えている。
そして、そんな言葉が目につき、文句や難癖や苦言を呈する人も増えている。

故意に言葉で人を傷つけることは、卑怯で残酷で、あってはならないことだ。
でも、こんな神経質にならなくても…、と個人的にはいつも、怒りと呆れと諦めの混じった感情で、思う。

この図書もその中の一つだ。
先日にクレームがあり、会議が開かれることとなった。
僕がしていたのは、その準備だ。

ずいぶん古い本だ。差別語とか、自主規制とか、そんな概念のない時代から生き残ってきた、読み継がれてきた本だ。今の時代にはそぐわない。確かにそう思う。

それでも、この図書、この本は、僕の世界を、人生を、世界を変えてくれたモノだ。
そして、あの時の僕みたいな状況の人には、きっと希望を与えてくれる、そんな本だ。
だからこの本はいつでも、永遠に読める本であってほしい…

もしも未来が見れたなら。
この“自主規制”がどこまで行くのか、僕はそれが知りたい。
僕の好きな本、僕の好きな映画、僕の好きな言葉は、未来でいくつ残っているのだろうか。

未来が見れたら、見られたら…。
僕は天井を仰ぎ見る。
四角い囲われた窓の向こう、どこまでも広がる青空は、悠々と顔を覗かせている。

雲が、窓枠の外へ、ゆっくりと自由に流れていった。

4/19/2024, 1:05:41 PM