かなで

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過ぎた日を思う

私は看護師で認知症外来で働いている。
患者さんはちょっと前のこともすぐに忘れてしまうけど過去の記憶は憶えている方が多い。

患者さんの娘さんからこんな話を聞いた。
「母はお米を毎回五合炊くんです。もう一人暮らしだからそんなにいらないのに。」
近くに住む娘さんが家に様子を見に行くと炊飯器にはたくさんのご飯があるそうだ。

娘さんに聞くと、今は一人暮らしだが、その五合のお米を毎回炊いていた時期は子供たちが巣立つ前との事。食べ盛りの時期だったそうだ。
その頃の記憶でお米を炊いているのかもしれませんねとお話すると、思い出したように娘さんがこう言った。
「母はいつも私たちがおなかが空かないように足りなくならないようにいつも沢山炊いていました。」と。
ああ。患者さんは今でも子供たちのことを家族のことを考えているのだ。お腹が空かないか、ちゃんと足りているのかと。

過ぎた日が今の事のように感じてしまう病気だけど、子供を思う母の気持ちはきっと色あせてはいないのだ。その記憶は深く刻まれ今でも残る。

かなで


10/6/2022, 11:21:05 AM