シシー

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 苦難を乗り越え手にしたもの
 歓喜に身を震わせ、言葉では表しきれぬ感情に流される
 とても御しきれぬ勢いそのものこそ、ふさわしい

「気色悪い、そう思わない?」

 会場が歓声に包まれ喜びに湧いているというのに、とても場違いな問い掛けだった。こちらをちらりとも見ることなく感情のない虚ろな目と横顔はとても静かだ。
 周りとは不釣り合いなその姿に思わず見惚れた。
何も答えられずにいると、次の瞬間その横顔は地に打ちつけられた。横にいた男が彼女を殴り飛ばし汚く罵っている。近くにいた人の群れにへらへらと謝りながら彼女をまた殴る。ひどく醜悪な男だ。どうやら彼女の父親らしいがそれにしても雑な扱いである。美しい彼女と同じ血が通っているとは思えない。

 壁に背を預け立ち尽くす彼女を置いて男は客席へと吸い込まれていった。汚らしい歓声をあげながら感情のまま振る舞う様にどうしようもない怒りと殺意が湧く。
 彼女は静かだ。虚ろな目はもはや何も映していない、いや暗く染まって光すら届いていないのだ。赤く腫れ上がった頬と口の端に滲む赤色が艶っぽくとても美しい。痛々しい姿なのに、心配しているはずなのに。この気持ちさえ暗い瞳の奥に沈み込んでしまったかのようで堪らない。

 他人の幸せの裏側は、こんなにも残酷で美しい。
 幸せとは、彼女のような人を引き立たせるアクセサリー だ。


               【題:幸せとは】

1/4/2024, 11:25:52 AM