一ノ瀬

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「1000年先まで残るものって何だろう」
 先輩が言った。視線はぽかりと浮かんだ雲に向いていて、たとえば今が夜なら、その先に散らばる星の光なんかはその代表ではないだろうかと思った。1000光年離れた星の、1000年前の輝きを僕達は今見ている。
 だけど、それだと何だか寂しい気がした。どう足掻いたって、1000光年先の星が今生きているという証を受け取ることはできない。1000年前に必死に輝いていた星は、500年前にはもう失われているかもしれない。発された光だけを見ている僕達に、それを知る術はない。
 だから僕は考え直して、「人の想いとか」と言ってみる。予想外だったのか、先輩は驚いた顔をして「移ろいやすいものの代表だと思うけど」と言った。
「万葉集は、1000年以上も前の、今でも鮮明な人々の想いですよ」
 僕の答えに先輩は納得したらしい。「じゃあこんな日々も歌にしてしまわないとね」と笑う。僕はうなずきながら、世界中のどんなものより美しい歌にしなければ、と密かに意気込む。叶うなら、遠いどこかで今頃生きている星の光が、1000年先もこの想いを照らしてくれたらいい。

2/3/2026, 5:17:11 PM