「私の言葉を、一つも聞き逃さないでね」
それが、欲のない君が僕にした、ただ一つのお願いだった。
【氷色のささやき】
君は、一度空気と混ざったら分離できなくなりそうな、透明な声で喋る人だった。
「じゃあ、もっと大きな声で喋ってよ」
僕が言うべきはそんなことではなかったと、あの時気づくべきだったのだ。授業中や同姓の友達と話すとき、君はもっと芯の通った声ではっきり喋ると知っていたのに。君があんなささやき声を届ける相手は、僕だけだって知っていたのに。
もう、どんなに耳を澄ませても、君の声なんて聞こえやしない。氷の溶けきった水を飲み干す。味なんてしない。
絶対に聞き逃さないように、君の透明なささやきが空気なんかに奪われる前に拾えるように、ちゃんと君のすぐ隣にいなきゃ駄目だったんだ。
「……本当に今さらだ。馬鹿だなあ」
氷水で冷えた胃から空気を吐き出すみたいに、ささやく。君が、僕が何かささやいていることに気づいて、駆け寄ってきてくれたらいいのに。
4/21/2025, 11:11:52 AM