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【キンモクセイ】

駅までの道がふわりと甘い匂いで満たされていた。
金木犀の花が風に散りながら、アスファルトの上で小さく光っている。

「今年も咲いたなー。」

隣を歩く声に思わず笑いが溢れてしまう。
毎年同じことを言うくせに、まるで初めて気づいたみたいな顔をしているから。

「お前、去年も同じこと言ってた。」

「言ったっけ?」

「言ってたって。しかも全く同じ場所で。」

くだらないやり取りに、ふたりして笑う。
でも、その笑いの奥には少しだけ寂しさがあった。

この道を一緒に歩くのも、もうすぐ終わる。
あいつが遠くの街へ行くことを俺は知っていた。
それでも、わざと何も言わない。
今だけは、いつものままでいたかった。

風が吹いて、金木犀の花びらが舞う。
オレンジ色の粒が光の中を漂って、まるで時間までゆっくりになったようだった。

「来年も、ここで同じ話しようや。」

「うん。約束な。」

そう言った声が少しだけ震えていた。
目の前がぼやけて、金木犀の色が滲む。
それが風のせいなのか、それとも——
わからないまま、歩き出す。
そんな背中に金木犀の光がふわりと滲んでいった。

11/4/2025, 1:36:10 PM