NONOZATO

Open App

夏の店

夏が好きだと、言えるようになったのはいつのことだっただろう。

「ねね、次の時間プールだって!」
「え!うそ、やったー!!」
本を読んでいる私の隣で大声で喜んでる女子がいる。
私はプールが嫌いだ。
「美玖ー、プール一緒に行こ!」
友達の玲奈が言った
「うん、」
「美玖ってプールほんと嫌いだよね」
「プールだけじゃないよ、夏ってのがもうやだ」
「マジかー」
私はため息をつきながら更衣室へ友達と向かった。
「あーあ、この匂い、ほんとに大っっ嫌い床もビチョビチョだし」
着替えが終わり太陽に照らされて暑くなっている地面を友達と一緒に走りながらプールの方へ向かった。
「はい、じゃあゆっくりとプールに浸かれよー」
先生がマイクを持って呼びかける。
「うわっ、虫が浮いてる、もうこれだからやなんだよ」
周りの生徒たちは笑顔で、「冷たーい!」なんて言いながらプールの中に入る。
「美玖も早くおいでよ!」
「わかったよ、、」
「うわっ、冷た、!」
私の肩まで包み込む水が冷たくて、浮いてくる水着のスカートが気持ち悪い。
「じゃあこのビート板を使って泳ぐげー」
学級委員が一人ずつにビート板を配っている。
「うわー暗い点々がついてるしなんか濡れてるよ…」
ープール後ー
「やっと終わった…」
1時間くらいの授業だったのにも関わらず私の体内時計は3時間経ったように感じてる。
「えーっとここの公式は縦×横で…」
授業を受けているのにプールで疲れて机の上でうつ伏せになって寝ている男子、やる気がなくてノートに落書きをしている女子。
「授業中くらい真面目に受けろよ…、」
ー放課後ー
「玲奈、一緒に帰ろ!」
「あ、ごめん美玖、今日掃除当番だから先に帰っててくれない?ほんとごめん〜!」
「ううん全然大丈夫、頑張ってね!」
下駄箱に向かってる途中階段から見える綺麗な景色に少し目を奪われた。
「こうやってみると綺麗だな」
なんて考えながら外に出ると一斉に聞こえてくる蝉の声が私を囲った。
「もう、さっきまでめっちゃいい雰囲気だったのにさ、ここに来ると耳が痛いよ、、寄り道せず帰ろ」
スタスタと小走りで家に帰る途中、水色の屋根のアイス屋さんを見つけた。
「え、!アイス?!え、あ、でも今日はすぐに帰りたいし家にもアイスあるし、どうしよ」
その時私の目に映ったものは小さな看板だった。
そこには「今よりもっと夏を好きになる?!マンゴーアイス!」と書いてあった。
私はその看板の誘惑に負けてアイス屋さんの中へ入った。
店内は日差しが差し込んで落ち着くBGMが流れている。
私は椅子に座りメニュー表を見た。
「いろんな味があるんだなー、どれにしよう」
残念ながら外の看板に書いてあったマンゴーアイスはすでに売り切れになってしまっていた。
「うーん、あ!このチョコチップアイスにしよう!」
「すみませーん」
店員さんを呼ぶと駆け足でこちらに向かってきた。
「お待たせいたいました!ご注文をどうぞ〜!」
「えーっとこのチョコチップアイス一つください」
「あ、ジュースも一緒に選べるのですが…」
「あ、そうなんですね!じゃあ〜オレンジジュースください!」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
店員さんは明るくて、私と違って夏がものすごく好きそうな人だ。
アイスを待っている間、スマホを取り出して今の時間を確認したり、本をしていると注文した物がきた。
「ありがとうございます〜!うわぁ!」
そこには今まで見たことがないくらいに輝いているアイス、そしてジュースの中に入っている氷が少しずつ溶け始めてカランと鳴る音が私の耳に入ってくる。
さっきまで蝉の声に耳が占領されていたのに今はものすごく落ち着いていて優雅な時間が流れてる。
「いただきます」
小さなスプーンを持ってアイスを掬う。
口の中に入れた瞬間じわぁっと広がるチョコの濃厚な風味。そのあと徐々に口の中で溶けるチョコチップのほのかな苦味が私を癒す。
「オレンジジュースもめっちゃ美味しい!なにこれ?!」
目を大きく開いてビックリした表情をすると、店員がこちらに来た。
「どうです?美味しいですか?」
「え、あ、はい!めちゃくちゃ美味しいです!アイスもオレンジジュースもめっちゃ美味しいです!」
そういうと店員さんは自信満々に返事をする。
「でしょでしょ!このオレンジジュースはね〜、この店特製のオレンジジュースなの!」
「そうなんですね!大好きですこのオレンジジュース!」
「よかったー!」
話していると店員さんは私に一つ質問をしてきた。
「あのさ、もしかして夏嫌い?」
「え?」
「あー、はい、苦手な方です…」
夏が大好きですって態度で示しているような人に大嫌いとは言いにくかった。
「そっかぁ〜、私と一緒だね〜」
夏が大好きだと思ってた人が急に苦手だと遠回しに言っているような発言をしてて少しびっくりした。
「え、夏嫌いなんですか?」
「今はだーいすき!だって朝家出て行ってきまーすっていったあと同時に聞こえてくる蝉の声がまるでいってらっしゃい〜って言ってくれてるみたいでだーいすき!」
なんて、私の予想は一瞬違ったように思ったが全然違ってはいなかった。
「へ、へぇーそんなんですね〜」
「なんで夏が嫌いなの?」
「だって、プールとか入った後に寝てる人見ると腹立つし、登校してる最中に汗は滝のように流れてくるしもう色々嫌いです」
なんて気付けば苦手だと言っていたのが嫌いに変わっていた。
「そっかそっか笑!いいねぇ〜青春だね〜」
「……」
青春という言葉を聞くと何かに気づいたような気がするが、なにに自分が気付いたのかわからない。
「プール後授業寝てる人をみれるのも今のうちだよ?、今何歳?」
「今はぁー、18歳、、です、」
「え?!もう青春最後の1ページじゃん!」
その言葉を聞いて私は今までの自分を振り返ると夏が嫌いで季節の一つを無駄に過ごしていた。それは青春の1ページのどこかを破ったみたいで、少し勿体無く感じてしまった。
「今しかないよ?大丈夫!まだ間に合う!まだまだ夏は続くから!」
「ありがとうございます!楽しみます!」
こんな言葉を聞いてすぐに夏を好きになるのは何か違うような気がした。
「ありがとうございましたー!」
お店を出てしばらく歩くと蝉の声がまた耳にはいってきた。
前までは好きになれなかったこの声も今は気にせず堂々と歩けている。
全部あの店と店員さんのおかげだなぁ〜。



4/25/2025, 12:57:59 PM