「捨てないの。」
何を、と聞き返せば、これと指さされた古い手ぶくろ。
もう随分使い古して草臥れたそれは、目の前にいる君から貰ったもの。
「捨てないよ。」
「なんで。」
「君から貰ったから。」
灰色の毛糸で編まれていて、冬らしい模様の入ったそれ。
何とも可愛らしいデザインのそれは君が初めて人に送るものだと、真剣に選んでくれたのを知っている。
気恥ずかしそうに、少し乱暴に押し付けてきたことも、よく覚えている。
そっぽを向いた君の耳が赤かったことも。
「ボロボロじゃん。」
「まだ使えるよ。」
「新しいのにすればいいのに。」
確かに毛糸に隙間が空いて、寒さがじんわり沁みてくるようになった。
それでもまだまだ使うつもりだ。
例え穴が空いてもう使えなくなったとて、大事にしまっておく。
贈り物を選んでくれた君の気持ちを、捨ててしまいたくはないから。
「じゃあ、新しいのやるから。」
それなら使ってくれんの、と君は言う。
新しいものを買え、ではなく、くれるという君。
大切に思われているものだと、頬が緩んだ。
「君が選んでくれたものなら、何でも。」
不器用で、口下手で、恥ずかしがり屋な君。
あぁほら、また耳が赤くなっているよ。
[手ぶくろ]
12/27/2023, 4:31:49 PM