月下の胡蝶

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お題《言葉はいらない、ただ…》



青い月の夜には不思議なことが起きる。



夜風が心地いい。


少女は大きなあくびをし、それから本を閉じる。とある先輩にあたる青年から「読んでおけ。明日、本当に覚えてるか確認する」の一言だけを言い残して、どこかへ消えてしまったが。



「今日暑いな―。せっかくだからあそこへ行っちゃおう」



部屋を抜け出し、夜の森へ繰り出す。ランプなどなくても、瞳に魔法をかけているから問題はない。


森の奥深くへたどり着く――その前に羽織っていた外套をすでに脱ぎ捨てて、泉で水浴びしようと飛び出したのはいい、しかしそこにいたのは例の青年だった。



「――お前」


青年は肌を露出した、薄手の衣一枚の少女を見、ため息をつく。



「なんでため息!?」

「いや、男として見られてないんだなって思って」


黒銀の髪が月灯りで輝くその様は、幻想的で綺麗だ。まだ濡れている髪からしたたる雫に、心が大きく音をたてる。


いつもと変わらない口調。それにむっとして、思わず言い返す。


「ヨルなんてぜーんぜん、男に見えないよ!」


「……」



その瞳が燃えていように、見えたのは気のせい――?



でもそれは気のせいじゃなかった。青い泉に引きずり込まれ、二人一緒にずぶ濡れになってしまう。少女が何かを言おうとするより先に、そのまま唇をふさがれてしまった。




青年から香る月華晶の花に酔ってしまいそうになる。ふわふわして、心地よい浮遊に。





青い月の夜の出来事だった。




8/29/2022, 11:46:01 AM