「私は、そんなに弱く見えます?」
こちらを振り返った彼女は、どこか寂しそうに微笑んだ。そこにあるのは確かに悲しみだった。いや、悔しさだろうか。首を横に振った彼は、しかし言葉を継げずに黙り込む。
彼女は強い。強く、聡明で、優しい。そんなことは彼が誰よりも知っている。彼がどれだけ努力しても追いつけないほどに、彼女は素晴らしい人間だ。妬まれ、時に忌避されることさえある彼女は、いつだって彼の目標だ。
「違う」
だからこれは彼の依怗だ。
「そうじゃない」
彼女を守りたいと思ってしまうのは、彼の問題だ。傷つく彼女を見たくなくて、その顔が曇るのを見たくなくて、先回りして悪意の芽を摘んでしまうのは、彼に問題があるからだ。
「お前は弱くはない」
せめてそれだけは伝えなければと、彼は必死に口を開く。
「弱くない」
そう、弱いのは彼だ。彼女を信じきれぬ彼が駄目なのだ。それはわかっているのに止められないのは、そうすることでしか彼女の傍にいられないと感じているがためで……。
彼が再び口を閉ざせば、彼女の瞳が揺れる。二人の間を満たす空気が、嘆きの色に染まる。
今彼女を傷つけているのは、他ならぬ彼自身。だがそれでも彼は、どうしても、彼女を守りたかった。そうすることしか、できなかった。
4/22/2023, 10:40:53 AM