透明(瞳に映る誰か)
「近眼の人って目が綺麗って言わない?」
瞳全体がきらきら潤んでいて、黒目も白目もどこか透明がかって見える。
別に目が悪くなりたいわけではないけれど、何となく少し羨ましく思ったりしないでもない。
「そんなん初めて聞いたな」
「ちょっと憧れちゃう」
「………憧れる対象、そこ?」
あからさまに呆れられて、彼女はほっといてよと頬を膨らませる。
「いや、お前のもそこそこキレイだけどな?」
そう徐に極限まで顔を近づけられ、突然のことに彼女はその場で息を止めて硬直する。
「やっぱ、思った通り」
そう言い置いて何事もなかった様に離れた彼に、彼女の方は驚きで挙動不審になりかけるのを抑えるのに必死だ。
―――人の気も知らないで!
ひたすら心拍数を鎮めることに集中しながら、そこそこって何よと心の中で悪態をつく。
というか、………目の前に迫った瞳のあまりの透明感に、心奪われたなんてどうして言えようか。
迂闊にもずっとそこにいてほしいと思ってしまった、ほんの一瞬の澄み切った時間。
END.
5/21/2024, 1:32:52 PM