普段から、彼女はシンプルなデザインの物で身を固めている。
洋服やカバンといった身につける物から、家電や家具にしたってそうだ。
筆記用具やタオルといった小物にも特にこだわりがないのか、手近ですませることも多い。
そんな彼女だが好みはある。
明確な統一感はないが、家具は白で基調して差し色で紫を入れるのが好きだ。
使い心地を優先するが、意外とかわいいものを集めたがる一面もある。
木製の高級感あふれる食器とともに、ハムスターの箸置きを出してきたこともあった。
バスボールの中に入っているハムスターのマスコットが出揃うまで買い続けたことも、一度や二度ではない。
彼女と同棲を始めて、少しずつそのハムスターのグッズを増やしていった。
そして今日も、リビングにハムスターの仲間が増える予定である。
が。
休みだからと配達時間を午前指定にしていたのだが、見事に寝坊した。
アラームを設定していなかったとはいえ、さすがに正午過ぎまで惰眠を貪るとか寝汚さすぎる。
「すみません、午前中に俺宛の荷物が届いて……」
「あ。お、おはよっ」
そわそわと落ち着きなく俺の様子を伺う彼女の瞳は、キラキラと期待に満ちていた。
リビングのローテーブルには段ボール箱が置かれている。
「……ましたか。よかったです」
「これさ。この間、一緒に選んだヤツだよね?」
「ええ。受け取りありがとうございます。開けていいですよ?」
「うん」
ワクワクと楽しそうに声を弾ませ、彼女は段ボールを開封していく。
そんな無邪気な笑顔で宅配業者の対応をしたのかと思うと、少し複雑にはなった。
中身はなんてことのない日用雑貨。
ハムスターのティッシュカバーと、トイレットペーパーのストックホルダーだ。
「かわいい」
ポツ、とつぶやく彼女の表情は本当にうれしそうにしている。
肌触りも相性が良かったらしく、無意識だろうがおがくずを再現したタオル生地を確認したり、ハムスターの頭を気持ちよさそうに撫でていた。
彼女にここまで慈愛に満ちた顔をさせるハムスターが羨ましい。
「そんなにソワソワするくらいなら先に開けるか、俺を起こしてくれてもよかったのに」
彼女の隣に座り、軽く束ねられた小さなポニーテールの毛先に触れる。
くすぐったさそうにしながらも、彼女は俺の手を受け入れながら、口を開いた。
「や、なんか……。なんて言ったらいいのか、うまく言えないけど、その、……うれしくて……?」
「え?」
「私がいることに、慣れてきてくれてるっていうのか、さ」
もじもじと指を遊ばせながら頬を染めていく彼女に、釘づけになる。
「ずっと気を張ってくれてたでしょ? だから、気を抜いてくれてうれしい……んっ!?」
彼女につられて胸の奥から熱が滾っていく。
不意打ちともいえる彼女からの告白をこれ以上は聞いていられなくて、その桜色をした薄い唇を手で塞いだ。
「……昼飯の選択肢を与えてやれなくなるのでこれ以上かわいいこというの、一旦やめてください」
「え、ヤダ。待ってたから、お腹空いてる」
「なら、黙ってください……」
わざとらしく喉を鳴らしてソファから立ち上がる。
「出前でピザ取るか、自宅でカップ麺か、外でランチデートか……選ばせてあげます」
「……全然、選ばせる気ないヤツじゃん」
さっきまでの甘い顔は幻かと思うほど、彼女は冷めた顔で俺を見上げた。
微塵も余韻に浸らせてくれない彼女に、俺もため息をつく。
「仕方ないじゃないですか。家にいると負けちゃいそうなんです」
「ん? なにが?」
「俺の理性です」
「それは困るな。急いで準備してくるね」
困るのかよ。
ワンチャン乗ってきてくれないかなと思ったのに、さすがに無理か。
とはいえ、ランチデートにこじつけることができたのでよしとする。
「あ、洗面台は先に貸してくださいよ?」
「んー」
間延びした彼女の返事に口元が緩むのを感じながら、俺たちは出かける準備を始めるのだった。
『届いて……』
7/10/2025, 5:41:52 AM