まる猫

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 “別れよう”

 私はその言葉をぐっと飲み込んだ

 桜の下で無邪気に笑う彼

 半年前突然この人に告られた

 同じクラスの人だなぁとしか思っていなかった私

 一生懸命に告白してくるこの人に押され

 ついつい承諾してしまった

 すぐに言い直そうとしたけど

 すごく嬉しそうなこの人を見て

 つい押し黙ってしまった

 そして初めて2人で迎えた春

 日が暮れ始めたとき

 突然彼が花見をしようと言い出した

 バタバタ準備して今に至るが

 私はまだ彼に言い出せていない

 彼は私と居るとき

 いつも笑顔だ

 何がそんなに嬉しいのか

 ずっと話しかけている

 私もそんな彼を見るのは、、、

 嫌いではない

 嬉しそうに手を振っている

 あれ?目が疲れたかな??

 なんだか耳と尻尾が見える気がする

 彼は大きな声で何か叫んでる

 いつの間にかだいぶ離れてしまったようだ

 私は彼の元まで小走りで向かった

 前にいる彼が夕日と重なって

 眩しくて目を細めてしまう

 桜と夕日と彼

 絵のようだ

 そう思ってしまうくらい

 綺麗な景色だった

 彼の顔が見えるくらい距離が近づいた

 すると彼は優しく微笑んで

 手招きをする

 彼はときどきそんな顔をする

 私は息を整えながら彼の元へ行く

 動悸は何故か治らない

 桜の下にいる彼はずっと待っていてくれている

 “別れよう”

 そんな言葉はすでに風と共に去っていった事に

 私はまだ気づかない

             『好きじゃないのに』より

3/25/2023, 11:47:24 AM