2023/06/19 【相合傘】
終礼のチャイムと共に、生徒が教室個からどんどん出ていく。今日は水曜日。基本的に部活がないからか、どんどん昇降口へ人が流れていく。
私も、今日は早く帰ろう。家の手伝いもしないといけないし。何より早く今日は私が幼稚園にいる弟を迎えにいく番だ。遅れるわけにわいかない。
私は足早に昇降口へと向かう。靴箱の前に立って上履きをその中に入れ、靴を履こうとした時、ふと気づいた。外では、今日の朝まで快晴だった空が雲に覆われ、雨を降らせている。
-よかった。二つ持ってきて正解だった。
こんなこともあろうかと、今日は弟の分も合わせて、二つ用意していたのだ。
私は桃色の傘を広げて帰ろうとした。
「うわー、結構な雨だなー。」
いきなり隣から声がした。それは、家が隣で小学校から今までずっと同じ学校に通っている幼馴染の声だった。
-びっくりした。
私は、少し高鳴っておる胸にそっと手を置き、自分を落ち着かせる。
「俺今日傘持ってきてないんだよなー、どうしよっかなー。」
彼は私の方に視線を向けてくる。
-もう、本当に世話が焼けるんだから。
「いいよ、私の貸してあげる。あとでちゃんと返してよ。」
私は持っている傘を手を渡し、もう一つ用意していた傘を取り出す。弟用で少し小さいが、まあなんとかなるだろう。
「えっ、一緒に入っていけばいいじゃん」
不思議と言わんばかりに首を傾げている彼の言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
「はあ!?何言ってんの!私たちもう高校生だよ?子供じゃないんだし。それに今日は弟の迎えがあるからこのまま家に帰るわけじゃないの。それ、今度持ってきてくれればいいから。じゃあね!」
一気に捲し立てるように言った言葉を唖然としながら聞いていた彼を置いて私は逃げるようにその場から離れた。
まだ大きく高鳴っており胸を落ち着かせるために、湿気の多い空気を必死に取り込む。
-いつからこんな気持ちになるようになったのだろう。
小学校の時なんかよりずっと背も伸びて、声も低くなって。昔は弱々しかったのに、いつのまにか守られる側になっていて。
-相合傘なんて、できるわけないじゃん。
後ろで私の桃色の傘を刺して突っ立っている彼をチラ見して、照れ臭くなりながら、私は走って肛門を出た。
また、逃げられた。
今日も彼女に逃げられてしまった。こうやって「幼馴染だからできる」みたいなことを言い出すと決まって彼女は怒ってどっかに行ってしまう。今日もまた、怒って逃げていってしまった。
-くそ、なんで振り向いてくれないんだよ。
ずっと前は、俺と同じくらいの背丈で、いっつも俺のことを守ってくれていたのが、今は俺よりも全然ちっちゃくて。自分が守ってあげたくなるような感じ。
今までと全然違う感情が、自分の中に湧き上がってくる実感がある。
-やっぱり俺が隣じゃ、頼りないのかな。
一度、彼女が貸してくれた桃色の傘を畳んで、自分のカバンの中にあるものを取り出す。俺の手には、彼女を見つけた時にそっと鞄にしまい込んだ、紺色の折り畳み傘が握られていた。
6/19/2023, 11:27:50 AM