永遠の花束
ここに一本の道があるが、誰も通らない。
大都市を結んでいるその先は、木が朽ち果てている怪しげな林間があり、そこを抜けていくとかつて人々が暮らしていたと思われる古い町と繋がっている。
人々がにぎわっていたであろう町並みは、今や浮浪者やごろつきの溜まり場になっており、常に気味の悪い視線を感じる。
それにこの地に心臓を好む魔女が住んでいると噂されており、恐ろしくて誰も近づかないのだ。
そしてこの通りの突き当たりにある4階建ての集合住宅の元に看板もない奇妙な店が開いている。一見、青みがかった薄緑色の柱を基調にした普通の雑貨屋に見えるが、近くへ通るだで中で大量な獣が死んでいるのではないかという程の異臭が襲ってくるのだ。
たが不思議なことに、匂い立つ悪臭をよそに普通の身なりをした老夫婦や廃墟に似つかわしくないような子供が扉を開けて入っていくのが奇妙だと、真相を確かめようとしたゴロツキが入ってすぐに出てきたと思えば、見たこともない顔で真っ当に生きると言い出し町を出ていったと気味の悪い話が拍車をかけているのだからこの店を構える人物こそ魔女ではないかと囁かれている。
そのオーナーらしき人物はしかめっ面にしてテレビと、数字が羅列されている紙を交互に見て唸っている。
「仕組んでるだろこれ絶対!」
負けた!と大声で喚きながら紙をくしゃくしゃに丸めた上でカウンターの机に掌で叩き潰す。痛いのは手だけで気分もすっきりしないことに更に腹を立てて指を鳴らすとたちまち紙が燃えていく。
「もう馬券なんて買わなきゃいいじゃないすか」
「もー60年もやってんの!そろそろ還元して貰わなきゃこまるでしょーが!」
床をデッキブラシで掃きながら一連の光景を見ていた茶髪の青年が、呆れたように話しかけてくるのでキビキビ働けと指して抗議する。
この青年は先日カネがなくなったと言い出して勝手に店の手伝いをしている為、容赦しないのだ。
「その、花どーしたんすか?」
青年は命令を無視して、カウンターに置いてある花束に質問を投げかける。
「ああ、これ?物好きが何かことある事にもってきてんの。かわいいだろう?都会の花だ」
「どう考えても花束にするやつじゃないでしょ」
「そうなのよねー。去年あたりからます貰っていたけどすぐ枯れちゃうから時間凍らせてあるんだ」
とんでもない返答にぐっとカエルのように喉が鳴る。
上の階の住人が施してくれたらしい。茎の長い花をうまいことラッピングして飾っているが花弁が細やかであるため華やかとは言いづらいが⋯。
「凄いを通り越して気持ち悪いっすね」
青年は、思わずでてしまった感想にすぐ口を両手で塞ぐが、形相をみて後悔することになる。
2/5/2025, 10:00:17 AM