追い風
びゅうう、と風が吹く。後ろからの風で背中が冷たい。リュック背負ってくればよかったな、なんて今さらだけど。
「風強いねぇ」
「そうか?」
「私飛ばされちゃいそう」
「お前、軽いもんな」
……さすがだな、君は。これで無自覚シスコンなんだからたまったもんじゃない。医者としての観点から体重の軽さを言っているだけなのは分かる分、変に期待してしまう。
「寒い、行きは暖かかったのに」
「防寒対策バッチリじゃねえか」
「あ、寒いんだ〜」
「この格好で寒くないとでも?」
まあ、ジャンパー一枚だけはそれなりに寒そう。マフラーでも手袋でもなんでもしておけばよかったのに。
「晴れてたもんね〜」
「今も晴れてはいるんだがな、風が寒い」
……寒いのか、そうなのか。なら、ちょっとやってみようか。
「じゃあ、私のマフラー貸したげるよ」
「は?いや別に」
「い〜からい〜から」
無理やりマフラーを巻いてやる。背が高い分やりにくいが、どうにか巻き付けた。
「どーだ、シンプルだからなかなか似合ってるよ」
「……お前寒いだろ」
「別にいいって、カイロあるし。それより、帰ったら今日買った服着て妹ちゃんに見せてね」
面倒くさそうにする君は相変わらず仏頂面でちょっと怖い。でも、この顔して家族にはポケポケだし医者として優秀だし不器用なだけでかなり優しい。私のマフラーを巻いた君を見ながら家に帰る、なんて贅沢。今日ばっかりは、冬の追い風にも感謝しておくとしよう。
1/7/2025, 11:47:07 AM