柔らかい雨には久しく出会ってない。それに、今は冬へ向かう季節で、「一雨ごとに寒くなる」冷たい雨ばかりだ。
でも「柔らかい雨」にも覚えがないでもない。暖かい季節の軽い雨模様のとき。
雨、といえば作物には日照とともに必須の日本。昔、農家をしていた知人があったんだが、雨が少なくて難儀していた年があった。畑の土が乾燥してひび割れ、家の水道からホースで長時間かけて広い畑に水を撒いてしのいでいた。ある日、やっと薄い雨雲が出て、「お湿り程度」の雨が降った。雨はすぐにやんでしまったので、知人はまた水を撒きに畑に行った。すると、わずかな雨しか降らなかったのに、畑の土からひび割れが消え、しっかりと水分を含んだ畑になっていた。
「私が人間の力で何とかしようと思って、一生懸命一日がかりで水を撒いても全然だめだったのに、ほんのちょっとの雨でこんなになるのよ。お天道様って本当にすごいわ…」と、しみじみ、なんだか厳粛な感じで言っていたのが印象深い。
私はこの知人の畑や水田の場所が好きだった。空は遮るもののひとつも無く、大きく深く、美しかった。厚い雲の隙間から太陽の光が差し込むとき、それは幾つもの「天使の階段」よろしく荘厳に光を降らせていた。育ちゆく稲穂が風の姿を教えてくれるさまは水の波打ちのようで、長いこと見ていても飽きなかった。
残念ながら知人は伴侶を亡くしてから身体を壊してしまい、農家をやめてしまったのだが、作物を育てることが好きだったから、何がしか少しずつ作っているらしい。
私の印象の中の雨は、太陽の光と稲妻と風、そして雨が生かすものといつもセットになっている。
天から降る柔らかい雨は、地の生命の求めに応えるような優しさと、絶大な力の顕れのような気がする。
うん、感謝しながらごはん食べよう。
11/6/2023, 12:58:12 PM