お茶の子

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君の奏でる音色

君の奏でる音色を独り占めしたかった。

小学校のお昼休みになると、決まってオルガンを弾いていたあの子。

私は決まってあの子と向き合う形でピアノを眺めていた。
本当はあの子の指先や音色を私だけが独り占めしたかった。

だけど人気なあの子は決まって何人かに囲まれていた。
そしてピアノが弾ける子はあの子と距離を縮めて楽しそうに弾き合っていた。

私は楽譜が殆ど読めないから、その輪の中に入れずに眺めることしかできなかった。

代わりにその子の指を、音を記憶していた。

弾くのは大抵何曲かに決まっていて、そのうちの1曲は音楽の教科書にも載っている分かりやすい曲。

覚えやすかったその1曲を、ひたすら眺めては記憶し、家でこっそりと練習した。

そして弾けるようになった。

けれどどこまで頑張ってもその子の真似しか出来ない私は、「弾けるよ」と言い出すことも出来なかった。

そしてそうしているうちに、飽きられたのかその1曲が弾かれることはなくなった。

もっとピアノが弾けたらあの子が奏でる音色を独り占め出来たのだろうか。
そしてあの子を独り占め出来たのだろうか。

君の奏でる軽やかな音色が、君が、憧れで、大好きだった。

8/12/2023, 12:16:00 PM