一瞬、誰を呼んでいるのかわからなかった。
何時ぶりだろうか、自分の名前を呼ばれたのは。
もう家族も、呼ばないから。
子供が産まれてからは、家族も他の人も『ママ』としか呼ばない。
唯一、名前で呼んでくれる独身時代の友達達は、生活がお互い変わりすぎて会うことも出来ない……
時々、私自身が『ママ』というフィルターにかけられて見えなくなる。
いま笑っているのは、本当に私なのかな……
見失いそうになる自分は、子供の笑顔で食い止められるけど。
私って誰だろう……
そんな言葉が時折、ふと過ってしまう。
「えっ?詩歩!!久し振り!会いたかったよー!」
すれ違いざま、偶然会った友達に呼び止められた。
彼女の笑顔と私の名前を呼ぶ声、それだけで私は私であることを思い出すことができた。
「ねぇ、この後予定はある?久し振りに話さない?」
私は彼女に、あの頃と同じ笑顔で話しかけていた。
『私の名前は』
7/21/2023, 9:56:57 AM