未知亜

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 ずっと下ばかり見て歩いていた。時折しゃくり上げてしまう声に、すれ違う人がなんとなく避けていくのがわかったけど、もうどうしようもなかった。
 視界に、小さな色紙をバラバラと撒いたようなオレンジが映る。仄かな香りがふわりと鼻をくすぐった。立ち止まったあたしは、ようやく頬を拭う。
 いわし雲を背に並んだ、秋の代名詞。それ以外の季節にはきっと誰も気に留めない、その花の花言葉は、初恋。

『キンモクセイ』

11/5/2025, 7:17:54 AM