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『10年後の私から届いた手紙』



 タイムカプセルというのが流行ったことがある。
 そう言っても大袈裟なものじゃない。
 適当な缶に、例えばクラスメイトが好きなものを入れるだったり、私たちがこれから開けようとしているみたいに当時仲の良かった友だちだけですることもあった。

 10年後も関係が変わらないと信じてたなんて、無邪気にも程があるけど、子どもだったからしかたない。
 実際、今日集まったのは3人だけ。
 残りの4人がいまなにをしてるのかも、誰も知らない。

「はい、これあんたの」
 事務的に缶を開けて、宛名を確かめてふたりに渡す。
 そして手元には自分が書いたもの。
 なにを書いたのか覚えてないけど、他愛がないからこそいま見ると辛くなるものだったら嫌だな。
 ここ最近の仕事プライベート両面を浮かべて「きっとあなたの希望は叶わないよ」とかつての自分に先に謝ってしまいたくなる。

 開けるよと言ったわけでもないけど、ほぼ同時にみんな手紙を開いた。
 浮かんだのは全員苦笑。
 わたしもそうだった。

『10年後のわたしは、ちゃんとわたしが好きですか?』

 なにこのませた子ども。こんな可愛くない子どもだったかな、わたし。
 けれど、それは下手に将来の夢を書かれているより容赦がない。

 わたしはまだ自分が好きだろうか。
 嫌いまで言ってない、それで許してもらおう。
 どうかな、許してくれないかもしれないけど事実だからしかたない。

「夢がないなあ」
 そう言ってから残りのふたりに話をふると、そっちは子どもらしい夢が書かれていてそれはそれで困ったそうだ。
 そんなふたりの結婚式を明日に控えた今日これを開けようと言ったのはわたし。
 区切りがほしくて提案したけど、思った以上に自分には効果があった。

 好きだったのがいつまでだったかは覚えてない、少なくとも友だち付き合いがあった相手に付き合ってると言われた時に「そっかあ」と返したときには冷えていたんだろう。
 そこからもふたりと友だちとして付き合って、式にも参加するくらいにはふたりのことは好きだ。

 たぶんわたしは自分よりも彼らが好きで、彼らみたいな『好意』とは無縁なんだろう。
 そんな自覚はすこし前からあった気はする。

 まあ、それなら。
 誰も本気で好きになれないなら、自分のことくらいもう少しはすきになる努力はするか。
 そう思って明日は忙しくなるふたりと一緒に独身最後のお祭りだーと飲みに行くことにした。

2/15/2024, 10:22:24 AM