香る夢

Open App

こんな夢を見た。
君が隣で本を読む傍ら、僕がぼんやり窓の外を見ている。
外は冬。赤い南天の実が、重そうに雪の帽子をかぶっている。
空は灰色で、通りには人がまばらだ。道が滑るのか、みな慎重に歩いている。
こんなふうに、ぼうっと外を見ているのが、僕は好きだ。
ふと気づくと、僕の目の前に香ばしい香りの珈琲の入ったカップが置かれている。
隣を見れば、いたずらっぽく笑う君が、長い黒髪をもてあそびながら僕を見ている。
『飲まないの』
そう言って、彼女は自分のカップを持ち上げた。
僕も自分のカップを持ち上げ、飲もうとした。珈琲の香りを楽しもうと、そっと目を閉じたそのときに、とつぜん電子音が鳴った。
ピピピピ。
その電子音に驚いて目を開ければ、そこは今までいた場所ではなかった。
僕はベッドに寝ており、窓の外は爽やかな新緑が広がっていた。隣には誰もいない。
そこで思い出した。あれは僕の若い頃の、いつかの日常であったときだった。
ゆっくりと起き出して視線をめぐらすと、サイドテーブルにカップが置かれている。
そこからは、あたたかな湯気と、珈琲の香ばしい香りが立ちのぼっていた。
「飲まないの」
あのときと同じ口調で、しわぶいた手をそっとカップにのばす女性がそばに立った。
僕はゆっくりと微笑み、感謝をしながらカップをとった。

1/24/2024, 3:44:53 AM