舌をな、噛みちぎるんだよ。
銀座にはタンが大好きな神様が出るらしい。君は前歯にも届かない舌を覗かせて笑った。今日も排水溝はヤニと吐瀉物の匂いがする。それと混ざって、この排水溝の真上にある店の、甘い香水の香りが腹をかき乱し、せっかく食べた久しぶりの肉が出そうになった。
噛みちぎった舌はどうするの?
どうするってそりゃあ、売るんだよ。
そう言って血まみれのジップロックを見せてきた。
ふーん。おいしいのかな?やっぱり。
知らね。神様の趣向なんか知りたかねえよ。
排水溝にネオンの光が差す。地上に出ると、僕たちは手を繋いだ。君の手は震えていて、それが寒いからなのか、薬のせいなのかは分からなかった。路地裏に入って吸い込まれるように奥へと進んでいく。ガラス張りに僕たちの姿が写った。君の手には一冊の本があって、本の角が赤黒く変色していた。もう一方の手でナイフを握り、僕も1本のナイフを握りしめて、お互い胸から滲み出る血を垂らしながら引き抜いた。
壁に背をもたれ、気怠い体に身を任せてへたりこむ。神様、出なかったね。僕がポツリと言うと君は辛そうな顔をした。
実を言うと、嘘なんだ。本当は香水がキツイ店にいるクソ野郎にやられたんだ。それでさ、つい目の前にあった本で、ね。
ざまぁみろと力無く笑う君が綺麗で、僕も笑い返したかったけど、もう口角を上げることさえ出来なくて、僕らはいたずらに夜の闇へと没した。
僕にとってその本は神様だよ。
.好きな本
6/15/2024, 5:37:11 PM