「それでいい」では、少し弱いかな?
私の世代は、どうしても、
「これでいいのだ」になってしまう。
明治大学教授の齋藤孝は、尊敬する人に「発明王エジソン」と「天才バカボンのパパ」を挙げている。
「これでいいのだ」は魔法の言葉だ。言わずと知れた、赤塚不二夫の発明である。
バカボンのパパ=赤塚不二夫であろう。
「これでいいのだ」は、良い事も悪い事もすべてを丸呑みし、肯定してしまう。
彼の漫画は、日本漫画を変えた。赤塚不二夫の前に、あの様なマンガは存在しなかった。
あまりにも突拍子のない世界を見て、子供達は狂ったようにゲラゲラと笑い転げた。
「天才バカボン」の単行本を読んだ私の兄は「頭がおかしくなる」と言っていたのである。
母は「こんなモノを読んではイケナイ」と怒った。
そのくらい、当時の日本人に衝撃を与えた作品だった。
バカボンのパパは、自由で、好きな事をやって、失敗したとしても、事態が悪化したように見えても、「これでいいのだ」と言って切り抜けてしまう。
赤塚不二夫の言動も、ほぼその通りで、漫画家として逸脱し過ぎていた。
エンターテナーの道も探り出し、芸能界にも手を出し、友を求め、めちゃくちゃに酒を飲み、酒を飲み、酒を飲み続けた。
だから、友達は大勢増えたが、漫画はそんなに描けなくなってしまった。
漫画と、友達。どっちを大切にすべきなのかは分からない。
常識的な私達は、もう少し酒をセーブすべきだったと思ってしまうが、そのようなスケールは、赤塚不二夫にとってまったく意味をなさない。
赤塚不二夫とタモリの関係は、余りにも有名だ。
まだ無名の、得体の知れない男を気に入り、家に住まわせ、金も与え、車も自由に使わせた。
タモリはやがて大スターとなって見事に花開くが、それによって見返りなんて求めないし、タモリも恩返しなんかしなかった。
そんな、ありきたりな関係じゃないのだ。
でも、赤塚不二夫は人に優しくして、何度も騙されたようだ。
けれど、どんなに酷い目に遭っても、文句は一切言わなかった。
すべて「これでいいのだ」で貫いてしまった。
何があっても、「これでいいのだ」。この突破力。
この一言ですべてをゼロに帰してしまう。魔法の言葉を残して、赤塚不二夫は去って行った。
4/5/2024, 5:40:59 AM