【風に身をまかせ】
私たちを包んでいた実の外殻が、ついに弾けた。
風に煽られ、この体は宙を舞う。
私と同時に実を離れたきょうだいたちが、周囲でくるくると踊っている。私もくるくる回りながら、風の吹くままに流れていく。きょうだいたちと離れ離れになるが、寂しくはない。私たちはひとつの宇宙で繋がっているから。
……なんだかうさんくさいことを言ってしまった。しかし事実だからしかたない。私たちがいま漂っているのは、まさしくひとつの宇宙なのだ。直近の恒星が生むプラズマの風に乗って、私たちは宇宙空間に散らばる。永い時を彷徨い、やがてどこかの星の引力に引かれ、落下し、その星で芽吹く。それが私たちの役目だ。
この体は硬い耐熱殻に守られているから、大気圏を突破してもそうそう燃え尽きたりはしないだろう。ただ、落下先が濃硫酸の海だったり、私も知らないもっとひどい物質だったりしたら、そこで運命はおしまい。星に落ちる前に、恒星やブラックホールに突っ込んでも、ジ・エンド。しかし、私が終わっても、数多いるきょうだいたちの誰かは、きっとどこかの星に辿り着く。
運良く環境のいい星に落ちることができれば、私が内包する有機物は、やがてその星に適応した生命へと育っていくだろう。その生命は永い時をかけて増殖し、進化し、知恵を持つ――がどうかは賭けだが、もしある程度の知恵を持ったなら、彼らの星や恒星系の終わりとともに、また私たち播種有機体を宇宙空間にばら撒くだろう。
私は地球という星で生まれた。ロケットという名の実に包まれ、打ち上げられた。私の中には、地球で進化した人間という種族の有機体が含まれている。その前は、⁂Åという星の、⊿∟∋という種族の有機体だった。そんな連綿とした記憶が残っている。さて、私は――私のきょうだいたちは、次はどんな星で、どんな進化を遂げるのか。
宇宙の風に身をまかせ、はるかなる偶然を求めて、何度目かになる私たちの長い長い旅が、またはじまった。
5/15/2023, 1:11:37 AM