春風とともに
柔らかな春の眠りから覚めて、少し肌寒い明け方の中、寝床から起き上がった。日はまだ登ったばかりで、窓から見える山の端はしらじらと春霞にぼやけている。散歩にでも行こうかと思い立ち、身支度をして外に出た。
朝が好きだ。一日の中で一等好きな時間かもしれない。
朝の澄んだ空気を吸い込む。少し冷たくて、鼻の奥がつんとする。人も草木もまだ起きていない様で、本当に静かだ。物哀しく、寂しく、ほんの少し泣きたくなる様な感じがするのが、好きだ。
田んぼのあぜ道を歩く。ぬるい春の風が頬を滑っていく。道端に咲く名も知らぬ野花を風は静かに揺らしていった。山も未だ眠っている。花は蕾の中で静かに春を待ち、鳥は巣で身を寄せ合い眠りについているのだろう。風はきっと、彼らを見て来たのだと思う。春の訪れを運び、その中で暮らすあまねくものたちを、柔らかく祝福してやったのだろうと。
春風とともに運ばれて来るものは、春の息吹なのだろうかと、ふと思った。
帰路に着く頃には、日は上り切って、朝が訪れていた。春の盛りまで、あともう少しだろう。
3/30/2025, 1:30:44 PM