魚の煮付は生姜多めで

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〈無垢〉
 日に日に縁遠い言葉になっていくと思わないか。
 別段、子供の頃も無垢だった訳ではないが。
 この娑婆は狂わずには生きられない。狂わず生を全うする者こそ狂人。というような文言を聞いて久しいが、君よ、歳を重ねるにつれ、それを真言なのではないかと錯覚してしまわないか。
 私はね、「無垢」は「無知」と何が違うのかと考えるよ。
 如何すれば無垢でいられるのか分かるかね。世の中の薄汚れた掃き溜め部分を知らぬからではないか。君よ、娑婆の地に足着けねばならなくなった彼の日から何を見てきた。幾度と憤懣遣る方ない思いをしてきた。
 見れば見るだけ、知れば知るだけ、寝て起きた数だけ、君は薄汚れ無垢からかけ離れてきたのだ。尤も、その汚れを勲章と取るか、恥部と取るかは私に干渉の余地は無いが。
 無垢は大して尊ぶ程のものでは無い、羨んでしまうのは仕方ないがね。しかしね、無知は決して愚かでは無い、生き抜く戦略とも言えるからだ。知恵は素晴らしいが同時に柵にもなる。「知らぬ方が良かった」と感じた君の一部過去が証拠だ。
 さて。君よ、未だ無垢で無知なれば、これから如何様に生きるつもりだね。私のようになってはいけないよ。

6/1/2024, 1:56:13 AM