時雨 天

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雨に佇む




傘もささずに一人佇む黒髪で長髪の少女。雨に打たれ続けている。
周りの人は、その少女を避けるように歩いていた。
迷惑、変な人、不思議、幽霊、少女はそんな風に見られているだろう。
そんな中、雨は容赦なく、降り続けていた。
少女は空を見上げている。暗くて、どんよりとした空を。
何もないはずなのに、ずっと空を見上げている。
何を思い、何を見つめて続けているのだろうか。
ふと、天に祈りを捧げる。目を瞑り、静かに祈り続けた。
そこだけ、生温い空気がひんやりと透き通った空気に、変わったのだ。
どこからか、鈴の音色が聞こえてくる。――チリーン、チリーン。
何かが、起こるのだろうと期待の眼差しを送る人々。
しかし、何も起こらなかった。ため息や舌打ちが聞こえ、ガヤガヤと忙しない音と雨の音に戻った。
静かに瞳を開ける少女。そのまま、人混みへと消えて行った。
しばらくして、雨が止んだ。どんよりとした雲の隙間から差し込む太陽の光。
まるで、天使が降りてきそうな雰囲気。そして、七色の虹がくっきりと現れた。
人々は傘をたたみ、その場に佇み、空を見上げる。今まで下を向いて歩いていたのに、綺麗な虹が出ると上を見て、笑顔が溢れた。
――雨に佇んでいた黒髪で長髪の少女は、人々の心を雨から晴れ模様に変えたのだ。そして、また雨が降っている場所へと赴き、空に祈りを捧げる。

8/27/2023, 1:11:44 PM