【寂しくて】
夕方のグラウンドにボールの転がる音だけが響いていた。
二人で放課後に残るのが、いつの間にか日課になっていた。
話すことがなくても、黙ってキャッチボールをしているだけで妙に落ち着いた。
「大学、どうするん?」
ぽつりと呟かれた声にボールを握る手が止まった。
「まだわからん。お前は?」
「俺はもう決まっとる。遠くの学校やねん。」
そう言って笑った顔が、少しだけ寂しそうだった。
それからのボールは、どこか重く感じた。
いつも通りの距離なのに、投げても届かないような気がした。
風が強くなり、夕日が沈む。
帰り道、二人ともほとんど話さなかった。
街灯の下で別れ際に、彼は小さく手を振った。
「またな。」
その声に「おう。」と答えたけれど、もう次がある保証はどこにもなかった。
夜、部屋の隅に置かれたグローブを見つめる。
ただの道具のはずなのに、そこにあいつの声が染みついている気がした。
寂しいのはいなくなることじゃない。
心のどこかに、もう一人分の居場所が空いてしまうことなんだと思った。
11/10/2025, 2:42:44 PM