あひる

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飛べない翼


「いてっ」

 背中に走った痛みに思わずその場にうずくまった。
 あと少しで飛べたのに。
 後ろからザリザリっと足音がして、黒の革靴が視界に入った。

「何すんだよ!」
「まだ早いですよ、飛ぶのは」

 見ると男の手には、翼みたいなものがあった。

「は? 何言ってるんだよ、関係ねぇだろ、アンタに」
「ありますよ。担任ですから」
「意味わかんねぇんだけど。背中痛いし、ていうか、何それ?」
「あぁ、これですか。キミの翼です。飛ばないように、もぎましたから――」

 背中をさすってきて「痛いですか?」なんて聞いてくる。

「本来、死ぬ時しか見えないんですよ、この翼は……君は」
 
 ――あぁ、そういうことか。
 
「がんばりすぎです。17でこんなに立派な翼にならなくていいんです。立てますか?」
「…………」
「おんぶしますか?」

 ――はぁ? 何言ってるんだよ、この先生……。

「……先生って、一体……何者?」
 
 揺れる背中で聞いた。
 あったかかった。

11/11/2024, 12:06:50 PM