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「先輩まだ卒業しないでください」

「無理だよ」

何回言っただろうか?
この会話がいつの間にかテンプレになっていた。

卒業しないでくださいなんてことを言うのは後輩の彼。
彼は何故か私のことを好いてくれている物好きの子。

お昼になると必ず私の教室にお弁当を持って来る。
私は彼と食べることが普通になった。
彼に聞いた。
「なんで私に懐いてるの?」

「犬みたいに言わないでください!!慕ってるんです!
慕ってる理由は,先輩のこと好きだからです!」

「そっか」

「え?返事ないんですか?」

「まだしないよ」

「ちょっとなんでですか」
タイミング良くチャイムがなった。
「じゃあ午後も頑張ってください!!」

「うん。ありがとう。君も頑張って」

「はい!!頑張ります!!」



卒業式当日
「先輩。卒業おめでとうございます。
これからどこ行くんですか?」

瞬きをしたらこぼれそうなほど潤んだ目をした彼が
私に向かって走ってきた。

「秘密」
そう言いながら私は彼の涙をハンカチで拭った。

「何でなんですか?」
両目から大粒の涙をこぼす彼を見て

「大丈夫だから」
なんて彼の質問の答えにもならない言葉を最後に
彼の元に去った。

本当はずっと君のそばにいたくて。

本当は君のこと好きで好きで。

本当は君に毎日会いたくて。

でもそんなこと出来なくて。

気持ちがゆらがないように

彼のLINEをブロックした。




1年後
桜が少しづつさきはじめた季節に

私は校門の前で彼を待った。

「えっ,先輩?」

1年前と変わらないあの声が聞こえた。

顔を上げると以前よりも背が伸びて垢抜けた彼がいた。

「卒業おめでとう。1年って長いね。

君に会いたくて迎えに来たよ。」

そう言って手を広げると彼は私に飛びついてきた。

「先輩好きです...!」

泣いている彼が私に言った。

「うん,私も好きだよ」

「ホント?」

「うん。今日君に会いたくて来たんだよ?」

「嬉しいけどLINEブロックしなくてもいいじゃん。」

「ちょっと拗ねた?」

「うん」
なんて1年前と変わらない会話をして

お互い笑いながら
“卒業式”の看板を挟んで写真を撮ってもらった。

いつもはさ,君が私を迎えに来てくれてたから

今度は私が迎えに行こって思って

君に会いにたくても

会わないように我慢してきたんだよ。

一緒に入れるのって幸せだね





─────『君に会いたくて』

1/19/2023, 8:35:52 PM