ひともどき

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都会のコンクリートジャングルに身をうずめ
ヒトと文明に包まれていると、
どうしても自然を忘れがちだ。

都会の自然は造られたものだ。
どれだけ大きくて古い公園だとしても、
「あえて手つかずで残して遣っている」という
ニンゲンのエゴが見え隠れして、
自然そのものに触れた気にもなれはしない。


今日は手つかずの自然の話をしよう。



小学生高学年の頃の話だ。
近場のスキー場ではオフシーズンのゲレンデで、
毎年コスモスを育てて、見頃になると祭りを開いた。
田舎なので、近場と言っても車で一時間かかる。


例年の如く祭りの会場で友達と出会い、
何を思ったか、ゲレンデの頂上まで行くことになった。

100mもないなだらかなコースにコスモスが咲いていたが、
その先の急勾配な上級者コースには何もなかった。
正確には、草が生い茂っていた。


軽い気持ちで上級者コースまで来たところ、
1mを超える雑草が立ちふさがった。
もはや冒険である。戻ろうとは誰も言わない。
ザクザクと草をかき分けて進むうちに、
満開のコスモスも、麓の祭りの会場も見えなくなった。

山の日暮れは早い、まして自分の背を隠すほどの草の中。
想像よりも暗くなった坂の途中で、
少しだけ母を思い浮かべた。絶対に心配している。
心細さと一握りの思いやりには気付かず、
友達は先へと進む。私も続く。



頂上につく頃には草の壁はなくなり、同じくらい高い
ススキが生えつつも、開けた場所があった。
振り向くと、市内も海も見渡せる絶景であった。
いたずらっぽく、麓に向かって手を振ったものだ。


汗もからりと乾く秋の思い出であった。
無論、下り終えて散々叱られたことも付け加えておく。

お題「ススキ」

11/10/2023, 10:27:16 AM