彗白れお

Open App

【鏡の中の自分】

「やぁ、初めまして。もう1人のボク。」
と鏡の中のボクは言う。
それに応えるように「初めまして」と鏡の前の僕は口を開く。
そして挨拶を済ませ終わると鏡の中のボクが質問し提案する。

「君は生命体がなぜ眠るのか知ってるかい?」

僕は首を横に振る。

「それはいつの日か、夢から覚めるためなんだ」

「??」

僕は首を傾げる。

「一度、鏡の中のボクになってみないか?」

鏡の中の自分。どういうものなのだろうと気になって仕方ない。
僕は鏡の中のボクになってみることにした。

「じゃあ、鏡の前で目を閉じてみて。それだけで君は鏡の中のボクになれる。」

僕は従うように目を閉じる。
すると、同じ鏡の前に立っていた。
何も変わってない気がするのは気のせいだろう。

鏡の中での生活は自分が思い描いた理想のものだった。
お金にも困らず、人間性も良いものだ。
数えるとキリがない。

こんな理想的で幸福感に満ちた生活をしていてかなりの時間が経過した後、ふと思い出した。
これはただの現実逃避だと。
思えば鏡の中の自分などいるわけがない。光の屈折で反射して見えてるだけなのだ。

そう。淡い理想的な想像に溺れて現実から目を逸らしてはいけない。
僕は気がつくと鏡の前に立っていた。あるのは鏡と僕だけだった。

でも鏡の中のボクの言葉はなんだったんだろう。

鏡の中は夢の世界だと思う。

鏡の中ではすべてが許され、すべてが可能になる。

私は色々な目的でそこに来て思わぬ方法でそれを実現した。

その結末が甘美であれ幻であれ苦い現実的なものであれ、
それは私が望んだ答え。

人はなぜ眠ることを選ぶのか。

それは鏡の中のボクが言う通り、

いつの日か、夢から覚めるためだと思う。

11/4/2024, 12:35:36 AM