太陽に歯向かって飛び、羽を焼かれては太陽に挑み続けるバカ天使がいた。
名前は覚える必要もないほどバカだが、一応書いておくと「イカロス」という。
「あいつほんとバカだな」
セラフィムの使いが、今日もまた太陽に向かい、その途上で「あち〜」と言いながらひゅーんと落ちていく様子を見届けた。
ほんと懲りない野郎だな、と呆れ顔である。
「どれ、ちょっとは手助けしてやるか」
セラフィムの使いは、指をパチンと鳴らし、またたく間に夜にした。
「奴はバカだからな、太陽があるから諦めないんだ。一生太陽が出なけりゃ、やつも諦めることだろう」
セラフィムの使いはけらけら笑った。
しかし、バカ天使は生粋のバカだった。
翌日、夜と区別につかない昼間になったあと、あのバカ天使は2番目に輝く恒星、おおいぬ座の一番星であるシリウスに向かって飛び始めた。
「あれ、いきなり遠くなったな」
などと呟いていたが、バカだから気にせず向かっていく。
「もしかして、太陽と勘違いしてんのかな」
すでに太陽は、この世から無くなったというのに。
奴の目は節穴らしい。太陽とシリウスの区別がつかないのだ。
見た目からして違うのに、学がないと本当に哀れだ。
しかも、太陽に比べて近づいても熱くないからずっと飛んでいくタイプだぞ。
少なくとも、太陽の約54万倍は離れている。
もしかして、ずっと飛び続けるんじゃないか?
バカだ。あいつはバカだ。
セラフィムの使いは数日にわたり、アレの無学さにあざけ笑ったが、その行いによってバカ天使を見失う結果になった。
まずい、このままだと自分までもバカになってしまう。
天使の身体だというのに、トラに憑依されたぐらいに自身を切歯扼腕した。
セラフィムの使いは、バカ天使より階級が数段上のため、見失ってしまっては自分の面目が保たれない。
このときばかりは自分もイカロスにならなければならない。
「おっと、もとに戻さなくっちゃあ」
愚直に追跡する前に思い出して、新しい太陽を呼び出した。
ちょっと創りは甘いが、まあいいだろう。
別に生物の知能指数もそうでもないし。
セラフィムの使いは地球を見やって、名残惜しい感じで飛び去った。
それから数千年ほど経った。
セラフィムの使いはあまりに慌てたのだろう。
新しい太陽は、元々あったものより調節が効かなかった。
宇宙を一周したらしい、バカ天使が戻ってきた。
バカ天使はバカなので、太陽に道を尋ねた。
「シリウスはどこか知ってるか。太陽の居所が知りたいんだ」
太陽は、そっちにあるよ、といいたげにプロミネンスで方向を指した。バカ天使は感謝を申し上げ、飛び去った。
だが、後続であるセラフィムの使いは、いつまで経っても追ってこない。
理由は、すでにシリウスに着いているからである。
バカ天使より先に到着したことで、セラフィムの使いはずっと笑っている。ここまで笑い声が届くほどだ。
一方、バカ天使の道しるべのためにプロミネンスを出した太陽だが、それによって地球では大変なことになっていた。地球規模で温暖化が進んで苦しめられている。
地上の祖先はかつて、バカ天使について流れ星の亜種なのではないかと勘違いしていた。
太陽のせいで地球はおかしくなったのだが、今回もまた勘違いするだろう。
舌のような長いプロミネンスを出した。
あっかんべー。
8/7/2024, 9:26:09 AM