痛みで目が覚める。足元の猫が寝返りに驚いて噛みついてきたらしい。いたい、と呟いて身じろげば猫はベッドから飛び退いた。気怠い腕でスマホの充電コードを手繰り寄せてみると、夜の3時だった。朝になれば出勤せねばならず、睡眠不足は命取りになる。
もう一度横になるが、頭は冴えてしまっていた。思い出したくもないクソ上司の言葉が頭を占領する。些末なことを咎められ、些細なミスで尋問され、暴言を浴びせられた。そんな映像が生々しい感情を伴って再生された。
到底眠れそうもなかった。起き上がり、キッチンへ向かうと、飴色の瓶を取り出した。足にフワフワとした感触があった。猫がついてきていた。
窓辺に椅子を持ってきて、暗い部屋で、コップに注いだウイスキーをゆっくりと飲み下した。猫も窓辺に横たわった。窓の外には暗い雑木林があった。月は見えなかった。喉の奥が熱くなり、頭がじりじり炙られる心地がした。
コップをシンクに置いて、もう一度寝床に潜った。猫は来ない。まだ窓辺にいるらしい。今度は眠りにつけそうだった。目が覚める前に、すべてなかったことになればいいのにとぼんやり思う。すべて、とは何を指すのか、と自問自答する間に意識は沈んでいった。
8/4/2024, 4:22:44 AM