Noir

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また明日

夕日が落ちる頃、遠くに同じ服の人がたくさんいて、会話も遠くから聞こえてくるような、大通りから少しはずれた細道で小さな声が静かに響いていた。
「もぉ、また君いたの?」「行くあては?」
しゃがみながら猫と話しているのは、そう私だ。相手は黒色の猫。目はキレイなアクアブルーで、とても痩せ細っている。
この猫と対面したのは今日で3回目だ。

初めは、小さい声で鳴いていたのに気付き、話しかけたのが始まりだ。話かけたのはただの興味本位だった。
「君、野良?それとも脱走してきたの?」
そう聞いても何も答えない。分かりきっていた答えに、私は黒猫を撫でながら、自分に対して少し笑ってしまった。猫は撫でられていることに余り慣れていないようですぐに逃げてしまった。

そんな事があって次の日。
今日もいつもの大通り外れの細道を通る。
いつもと変わらない何も聞こえない細道……………と思っていたのに今日も違うらしい。
「今日もいたの?」「本当に大丈夫?」
そう話かけてもかえってくるものはなく、昨日と全く同じ状況にまた同じ笑いをおこしてしまう。
ここまでくればうちの子に……とも思ったがすぐにその意見は自分の中で却下された。生き物は興味本位に飼うものではないし、飼い主さんがいれば……と考えてしまい気が気でなくなるからだ。
「ごめんね。」そう言いながら、今日も撫でて逃げていく。明日にはいないだろう。

で、今日だ。これだけ会っていればもう顔見知りだ。私は本気で心配になった。といってもうちの子になるわけではないし、私1人だと何も出来ない。結局思うだけの物事におわった。
こんなに会ってしまうと愛着が出てきてしまうものだ。ただ、何も出来ない。自分の未熟さと無力さを痛感する。むやみに何かをし、それが良くない方向にいってしまったら?もし飼い主さんがいて必死にこの子を探していたら?……「ごめんね。」そんなことを考えた結果これしか言えない私。何も分からない猫。
もしかしたら案外凸凹コンビでよい相性かもしれない。そう思いながら今日も撫でていた。猫は目を細めている。私はなんて無力なんだろう。その顔をみて余計にそう思った。私の欲望を押し付けるのは違う。でも……やっぱり………私の心の中で葛藤が続きながらも私は言ってしまった。「また、明日。」その声は少し震えていて、その声を出した本人は悔しそうで、でも寂しそうに笑っていた。

5/22/2024, 12:49:06 PM