水月凜絃(みなつきりお)

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『束の間の休息』


かつて、ホームヘルパーの仕事に
従事していた時のこと。

一日、多い時で10件ほどのお宅に訪問をしていた。
各お宅には、電動自転車で伺う。
お宅にてケアをする時間よりも、
移動時間の方が多いのではないかと思うほど、
電動自転車を漕いだこともあった。
ケアが立て込んでいるときは、息つく間も無く
移動が続く。

雨の日も台風の日も、雪が降る日も
漕いで漕いで漕ぎまくった。
自転車で進めない時は、押して歩いた。

だから、とても天気が良くて、気持ちのいい
晴れの日はご褒美のように感じた。

サイクリングの時間として
楽しんだりもしたし、
空や季節の移り変わりに心を和ませ、
癒してもらったりもしていた。
ある日、ある時、突然に出会う、空の一幅の名画に
心の中で歓声をあげ、涙腺が緩むことも度々だった。

ある時は、荘厳で雄大な夕暮れに、またある時は、
世界の始まりのような朝焼けに、そして、
またある時は、目に焼き付いて離れない月夜に、、、

私は、この束の間の休息が大好きであった。

この束の間の、空や風や景色との対話が、
疲れ果てた私の心と体を、癒し、再びの活力を
もたらしてくれた。

もしかしたら、しあわせって、
この束の間の、休息の中にあるんじゃないかなと
そんなふうにも思われた。

例えば、もしも、この休息が永遠となったとしたら、
どうだろう。
私は、これほどまでに、あの束の間の自然との対話に、心を震わせているだろうか。

息つく間もなく、取り組まなければならない義務に
向き合い続ける膨大な時間。
その、合間に突然にやって来る奇跡のような
自然との出会い。


私は、自分の果たすべき義務と格闘する中で、
突然、神様から送られて来るギフトのような
このご褒美こそ、私の心を真実に満たしてくれている
ような気さえした。

むしろ、この束の間のご褒美のために、
私はがむしゃらに働いているのではないかと思うほどだった。

10/9/2022, 5:17:15 PM