藍星

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はい!こういうの好きかなって思ってさ。よければ、使ってね。

わぁっ!ありがとう!
と、プレゼントを受け取る。
熱帯の海の中で、鮮やかな魚たちが泳いでいる光景を再現した手のひらサイズのジオラマの中に、サンゴを模した時計の針が動いている。
とてもオシャレな、卓上時計をもらった。

海の青がきれいだね!曇りの日でもこれを見てたら、気持ちが晴れやかになりそうだよ!



ねえ、こんな麦わら帽子はどうかな?

いいんじゃないかなぁ。っていうか麦わら帽子って、あの畑にある麦の色だけじゃないんだね。こんなにカラフルなものは初めて見たよ。

そうだねー。確かに、あの麦の色を思い浮かべると思うけど、デザインも色も、ここはたくさんあるよ。あなたには・・・
これなんかどう?・・うん!いいと思うよ!
あなたの雰囲気に合ってると思うよ。

選び取り、私の頭に被せられたその帽子は、紺色に黒いリボンの麦わら帽子。
その自分の姿を鏡で見る。
ついついにやけてしまっている自分の顔が映し出され、急いで真顔に戻った。

恥ずかしがることないのに〜。もっと自信を持っていいと思うよ!あなたは。



久しぶりに少し遠出をして、
彼と温泉にやってきた。

お風呂上がりに、冷たいものを買ってくると言っていた彼が戻ってきた。


夏といえば、かき氷かなって思ってさ。
ほら、君の好きなブルーハワイ味。

ありがとうと受け取るも、不思議に思って聞き返す。
かき氷は好きな方だけど、ブルーハワイ味は好きな方ではないんだけど・・
どうしてそう思ったの?と。


えっ?君は青が好きなんだろ?
君の友人からのプレゼントや、君が選ぶものはたいてい青系のものじゃないか。
君の母親だって、あの子は青や紺色が似合うって言ってたぞ。

その言葉に、また自然と笑みがこぼれてしまったのを感じた。

あぁ、でもさすがに好きな色と好きな味は別物か。悪かったよ。
とにかくオレも、青系の色が君にはよく似合うと思ったんだ。今、君が着ている浴衣も青い朝顔の柄だし、似合ってると思うよ。


えっと・・そう、なんだ。ありがとう。
彼が褒めてくれてるのは、わかっているものの何故か彼からの、"青が似合う"という言葉はあまり嬉しくなかった。


・・もしかして、怒ったのか?

どうやら顔に出ていたようで、彼が心配そうな表情を向けてきた。

いや、そうじゃないよ。怒ってはいないから。と、答えても彼の表情は変わらなかった。

でも、いつも君は青が似合うって褒められたら嬉しそうにしているじゃないか。なのに、オレが褒めてもあんまり嬉しそうじゃなかった。だから本当は、怒ってるんじゃないのか?

本当に心配しているというか、不安そうな彼の様子に、私はいたたまれなくなってしまった。
そんなに、青が似合うって言葉に喜んでいたことがバレてたなんて・・
いたたまれなさと同時に、恥ずかしさも湧き上がってきた。


あの・・本当に怒ってないから。大丈夫。
かき氷のことは、むしろ私のことを気遣ってくれたことはちゃんと分かっているから。
ただ、その・・・青が似合うって言われて嬉しいのは・・・
言葉にならず、うつむいてしまった。


何でそんなに赤くなっているんだ?耳の先まで真っ赤だぞ。

私は思わず、耳を手で隠した。


と、とにかく!
あなたから言われて嬉しい言葉は、青が似合うじゃなくて、その・・そう言う言葉じゃないの!
半ばヤケになって出た言葉だった。
しかし、そんな言葉でしっかり伝わるわけもなく・・


・・じゃあ、どうしてオレの言葉じゃ嬉しくないんだ?それに、何て言ったら喜んでくれるんだ?

私はできる限り落ち着いて、彼に顔を向けて答えた。
私はあなたの方が・・あ、青が似合うと思う。その・・青い服とか、小物とかはもちろんだけど、青空とか、青い海とかもとても似合うと思ってて。
だから、あなたにふさわしい人になるには、私も青が似合う人になったらいいんじゃないかって思ったの。

彼は驚きの表情をした。

だから、あなた以外のみんなに、青が似合うって言われたら嬉しかったの。あなたにふさわしい恋人になれてるよって、言われているみたいで。
だけど、あなたからはその・・青が似合うとかじゃなくて・・そういう言葉じゃなくて・・ただ・・


そういうことだったのか。よくわかったよ。
それなら、オレからほしい言葉は青が似合うって言葉じゃないな。
というか・・

彼は私の手を握り、頬にキスをした。


言葉は何もいらないかもな。

それに、と彼は続けた。

みんなの言葉で、君自身がオレにふさわしい恋人になってるって判断する必要はないと思うぞ。そういう意味で、ちゃんとみんなの言葉を聞くんじゃなくて、オレが君をどう思っているかを、ちゃんと聞いてほしいって思う。


私は彼の手を握り返した。
そっか。ありがとうね。
確かに、全てのことに言葉はいらないのかもね。
ただこうして、手を握っているだけでも、あなたの想いが伝わってくるよ。


彼は安心した表情になった。

でも、少し焦ったんだからな。怒らせたかもって。その分の埋め合わせはしてほしいな。


私は彼の頬に、お詫びのキスを贈った。
今日はこれで勘弁して。
ほら、かき氷が溶けちゃうよ。
早く食べよう。


そう、私が本当にほしかったのは
青でも、青が似合うという言葉でもなく、

  ただ・・・こうして
    彼と一緒にいることだったんだ。

8/30/2024, 12:08:01 AM